第27話 闘技大会 ~総員戦~ ①
あれからというもの、実技授業になると皆の身の入り方が違った。お祭り気分みたいなもので、やる気が出るのだろうか?
あちらこちらで檄を飛ばす生徒を見掛けるが、各隊のリーダーなのだろう。守備隊はというと、自主練習に励むように伝えてある。
武術が得意な奴は武術訓練を、魔法が得意な奴は魔法訓練を頑張っている。俄仕込みの連携などは実戦じゃ役に立たない。個々の能力を伸ばした方がまだマシだ。
そんな中、俺はのんびりと的目がけて魔法の練習をしている。命中率を上げるため、的の中心に難なく当たるようになったら、少しづつ距離を取って命中精度を上げていく。
「とうとう明日から闘技大会だね。総員戦をまずはやるらしいよ。代表戦を先にやると、総員戦での手の内がある程度バレて対策されてしまうらしいし、代表戦で燃え尽きて大した働きが出来ないからなんだって」
「それは、逆でも起こりうるんじゃないか? 総員戦で目立って活躍した選手が、代表戦メンバーなら対策されるだろ。てか、回数重ねるごとにあとから戦うクラスには確実に対策されてるだろ」
「それもそうだね」
「適当に戦ってればいいんだよ。総員戦は攻撃隊に任せて、代表戦は残り4人の内3人に勝ってもらえれば、俺は楽できる」
「それは、ズルいよ。私も楽したい」
「楽したいならサクッと敵を倒してくればいいだろ。残り時間は楽にできるぞ」
「それは難しいよ。相手は格上しかいないんだよ」
「それはクラスに当てはめたらだろ? お前個人の実技なら上位クラスのやつ相手でも引けを取らないさ」
「買い被り過ぎだよ」
そんな話をしながら、今日の授業は幕を閉じた。明日はとうとう闘技大会か。出来れば目立たず楽して終わりたいものだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
~翌日~
今日は闘技大会とあって、朝から生徒達がピリピリしていた。かくいうFクラスも緊張からか、みんな言葉数が少ない。
「ケビン君、緊張してないの?」
「何故、緊張する必要がある? 命のやり取りのないただの競技だぞ」
「それでも緊張はするよ。初めての闘技大会なんだし。上級生からも観られるだろうし」
「上級生は観れるのか?」
「知らなかったの? 闘技大会は実況中継されるんだよ。この期間だけは学院で授業免除になってるから、みんな観ると思うよ。私たちも試合がなければ、各等部の試合観れるし」
「各学年じゃなくて、各等部!? ってことは、学院中に実況中継されるのか?」
「そうだよ」
不味い……不味い不味い不味い……確実にシーラ姉さんは見るはずだ。試合後に飛んできそうで怖すぎる。
半年間、平穏無事に過ごしてきたのに、ここで崩れるのか!? それに、クリスという変な奴にも入学していることがバレてしまう……
「悪い、急に腹が痛くなってきた。早退する」
「ダメだよ。守備隊のリーダーなんだから」
「リーダーはお前に任せる。頑張ってくれ。そして、帰らせてくれ」
「急にどうしたのさ?」
「俺の存在が知られると不味いのが、少なくとも2人いる。実況中継されると、不味いんだ」
「大丈夫だよ。一斉に試合するわけじゃないけど、同じ時間帯の試合数は結構あるから、もしかしたら試合に出てるかもしれないでしょ? それに、総員戦よりも代表戦の方が人気だしね」
「“もしかしたら”なんて分の悪い賭けに乗る気はない。後生だ、帰らせてくれ」
そんなやり取りをしているとジュディさんが教室に入ってきた。
「みんな、第1試合が始まるから野戦場へ行くわよ」
「ほら、もう始まるから行こうよ。今からじゃ、早退も出来ないし」
「なら、体調不良ということで保健室で寝させてくれ」
「それも無理だと思うよ。回復魔法使われて返されるのがオチだよ」
くそっ! どう足掻いてもダメなのか!? こうなったら誰かの陰に隠れてコソコソして、時間が過ぎるのを待つしかない。周りのやつが目立てば、そちらに気が向くだろう。
「最初はEクラスとの対戦だね。Sクラスはトリなんだってさ」
「そんなことはどうでもいい。今は如何に目立たずに、試合が終わるのを待つかだ。それに全力を注ぐしかない」
「そこは旗を守るために全力を注ごうよ」
「いや!? むしろ自分で開始早々に旗を壊せば、すぐ終わるんじゃないか……そうすれば、実況中継されるまでもなく隠れることができるのでは……」
「それ、確実に変な人として目立つよね? 普通に試合に参加するより目立つと思うよ。テンパりすぎて正常な判断が出来てないよ」
そんなこんなで、野戦場へ到着してしまった。まだ、実用的な作戦を考えついていないのに。
「それじゃあ、みんな精一杯頑張ってね。勝っても負けても悔いが残らないようにするのが一番だから」
そんなことを伝えつつ、ジュディさんは野戦場を後にするのだった。ここからは、早く試合が終わるのを祈るしかない。
シーラ姉さんは身内だから諦めるとして、クリスには入学していることを知られては不味い。
「みんな、聞いてくれ。今回が初戦でかなり緊張している事と思うが、いつも通りやれば勝てると思う。普段の練習通り、気負いせずにやっていこう! Eクラスに勝つぞ!!」
「「「おぉーっ!!」」」
試合前にサイモンの檄が飛び、クラスメイトがそれに応える。青春の1場面のようだが、ケビンからしてみたらそれどころではなかった。
「あぁ……どうしよぉ……」
ケビンの悩みの種が声となって、人知れず青空に消えるのであった。
ケビンの不安をよそに、Eクラスとの試合は始まってしまった。
「よし、まずは作戦通り斥候と遊撃の混合チームで、敵の動きを探ってくれ。攻撃隊は周囲を警戒しつつ前進だ」
作戦? そんなものあったのか?
「なぁ、作戦通りって言ってるけど、いつ作戦会議したんだ?」
「今日の朝、ケビン君がやる気なく寝ている時によ」
「それなら、聞いてないのも納得だな。で、守備隊の作戦は?」
「最初にケビン君が言った通りよ。敵を見つけたら迎え撃てって言ったでしょ? あれがそのまま採用されたの。それ以外、やりようがないし」
「そうか」
しかし、思ってた以上に暇だな。他の隊はどんどん進んでいって見えなくなったし。
「俺は寝るから、後はよろしく頼む」
「えっ!? 試合中も寝るの?」
「敵がいないんだからする事ないだろ? ボケっと立っとくのも暇だしな。ちょうどいい背もたれもあるし」
そう言って、旗を背もたれにして座り込む。旗は意外と頑丈に出来てるみたいで、背もたれにしたくらいじゃ倒れそうにない。
「相変わらずマイペースよね。敵が来たらどうするの?」
「迎え撃て。それ以外ない」
「いっぱい来たら起きて手伝ってよ。旗を壊されたら終わりなんだから」
「そうだな。旗を壊されたら、俺の睡眠が終わってしまうから、壊されないようにするよ」
「旗を守る趣旨が変わってるよっ!」
そんなカトレアのツッコミをよそに、心地よく眠るのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一方その頃、対戦相手のEクラスでは、格下相手ということもあり、気負いもなく普段通りの動きをしていた。
「最初の対戦相手はFクラスだ。格下だからDクラスと戦う前の小手調べにせいぜい使ってやろうぜ」
「そうだな。連携の練習相手にでもするか? 弱すぎて練習にもならないかもしれないが」
「そんなこと言っては可哀想よ。相手だって必死になるんだから、油断してはダメよ」
「とりあえず見つけたら魔法の的にでもするか? 動く的に対しての練習にはもってこいだろ?」
「1発でおねんねしない様に手加減しないとな。それで終わったら練習にもなりゃしねぇ」
「それもそうね。魔法の練習をしながら、避けてきた人は近接で排除するようにしましょう。そしたら、近接専門の人も連携の練習出来るでしょ?」
「よし、方針は決まったな。それじゃあ、攻めに行くか。旗の防衛は無意味だと思うけど、念の為10名残ってくれ。それ以外で攻め込んで、長引くのも面倒だし、2グループに分かれて挟撃するぞ。では、出撃だ!」
Eクラスの生徒たちは左右に分かれて、森の中へ進んで行く。
時を同じくして、Fクラスでは斥候が早くも敵の動きを掴み、攻撃隊へ報告に来た。
「敵は2グループに分かれてこちらに来ている。多分、挟撃狙いだろう。人数から見て斥候とか使ってないようだ。格下と思って舐めてるみたいだし、どうする?」
「そうだな。ここでこちらも2グループに分かれたら、戦力差で負けるかもしれん。だから、攻撃隊で1グループを相手取り、残りの1グループは斥候と遊撃で相手取ってくれ。それなら、人数的な差はだいたい埋まるだろう」
「俺達はどう動けばいい?」
「遊撃を前面に出して、斥候は死角からの奇襲を行ってくれ。それで幾らかは均衡が保てるはずだ。こちらは、全力で残りの1グループを迎え撃つ」
「わかった。各チームに通達して1グループを引き受けるよ。負けるなよ」
「そっちもな。あっさり負けるんじゃないぞ」
それからしばらくして、両クラスは戦闘へと入るのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ところ変わって、某教室のモニターには、初等部1年の試合の様子が映し出されていた。
「なぁ、何でつまらない野戦なんて映してんだ? しかも1年の。おままごとにしかならねぇだろ。代表戦見ようぜ」
「知らないわよ。この期間は授業免除なんだし、さっき私も来たところなんだから」
「んじゃあ、代表戦に変えるぞ。あっちの方が断然、面白いからな」
他の生徒にも一応の了解を得るため、聞こえるように言い放った男子生徒。そして、その男子生徒がモニターを操作しようとした瞬間、凍える様な威圧が教室を包み込んだ。
「「「!!」」」
「あなた、一体今から何をするつもりなのかしら?」
「い……いや、だ、代表戦を見ようと……」
「そんなもの見なくていいわ。私はそれが見たいのよ」
「わ、わかったから、威圧を解いてくれ!」
威圧が解かれると、男子生徒はすごすごと自分の席へと戻っていき、先程話していた女子生徒にヒソヒソと話し始めた。
(おい、シーラさんが見ていたなら言ってくれよ! 殺されるかと思ったぞ。寿命が10年は縮んだ気がする)
(知らないわよ! さっき来たばかりって言ったでしょ! 私だって巻き添えくってチビりそうになったんだから)
(それにしても、何で1年の試合なんて見てるんだ? Sクラスでもないだろ? 今日は落ちこぼれのFの試合のはずだ)
(本人に聞いてみればいいでしょ?)
(あんな威圧くらった後に聞けるかよ!)
そこへまた1人、教室へ入ってきた者がいた。
「さっきシーラの威圧を感じたのだけれど、あなたたち何かしたのかしら? 教室の外にまで漏れていましたわよ?」
「その、モニターを代表戦に変えようとしたら……」
先程モニターを触ろうとしていた男子生徒が、バツの悪そうに答えた。
「モニター? あぁ、野戦を見ていますのね。それは、怒りますわよ」
「えっ!? 何で!?」
「知らないんですの? あそこに映っている旗にもたれて寝ている子……シーラの弟ですのよ」
「「「!!」」」
誰も知り得なかった衝撃の新事実に、教室内は愕然とした。
「それにしても、前代未聞ですわね。試合中に寝る子なんて初めて見ましたわ。さすがは貴女の弟ですわね。肝が据わっていますわ」
教室へ入ってきた女性は、モニターを食い入るように見ているケビンの姉に、話しかけながら近づいて行く。
「ケビンにしてみたら、つまらないのよ。そこの男子が言ったようにおままごとにしかならないから」
「そこまで強いんですの? なら何故Fクラスにいるのかしら?」
「ダラダラしたいからだそうよ。あの子はのんびりと過ごすのが好きだから。首席入学を蹴ってFクラスで入学したの」
「そんな事が可能ですの?」
「秋頃に事件があったでしょ? 闘技場を封鎖した」
「そんな事もありましたわね。担当官だったAランク冒険者が好き勝手した挙句、誰かに襲われて再起不能になったあの話ですわね?」
「それをやったのがケビンよ。無謀にもケビンに襲いかかったのよ。その場にいたら、私が殺してたんだけど。あの子は優しいから殺さなかったのよ」
「そこの部分だけ聞くと物騒ですわね。殺すだの、殺さないだのと。にしても、仮にもAランク冒険者を相手取ってよく勝てましたわね」
「それすらも、あの子にとっては児戯に等しいのよ。実力差があり過ぎて無傷な上、返り血すら浴びなかったのよ? 汚れるのが嫌だからって。私でもそんな芸当無理だわ。魔法で倒すなら可能だけど、ケビンがやったのは近接戦闘で、魔法で倒したわけじゃないのよ」
「つまり貴女より強いということですの?」
「そうね。ケビンに勝てるのは母さんくらいじゃないかしら? それでも、ケビンが本気を出したらどうなるかわからないわ。あの子は、母さん相手でも手加減して、怪我させないように戦うから」
「異常ですわね。貴女のお母様相手に手加減ですの?」
「そう。多分、私も模擬戦したら、手加減して負けてくれるわ」
「それで、どうしてFで入学出来たのかしら? 強いだけじゃ無理なはずですけど」
「筆記試験は全て満点。これだけでも前代未聞。さらに、Aランク冒険者の悪事を暴き、単独撃破な上に相手の無力化。生徒を危険に晒したって事で、学院長が家に謝りに来たそうよ」
「学院長自らですの!?」
「そう。その時に母さんがイタズラをしたらしいんだけど、ケビンに諌められてね。母さんも唯一ケビンの言うことは聞くのよ。そこで、交渉したらしいわ。入学する事に対する対価みたいなものね。ケビンは学院に興味がなかったから、入学しなくてもよかったのよ」
「凄い弟さんですわね。そこまで強いなら、代表戦にも出てるんじゃなくて?」
「多分出るでしょうけど、わざと負けるんじゃない? 残りの4人の内3人が勝てば、クラスとしては勝ったことになるんだから」
「もし、2勝2敗で縺れ込んだら?」
「その時の気分によるでしょうね。目立たずにラッキーで勝てたっていう感じの作戦が思いつけば、勝ちにいくと思うわよ。とにかく目立たずダラダラ過ごすのが好きだから」
「変なところで努力する方ですのね。そのお陰で今の実力があるのかしら?」
「それは、わからないわ。ずっと一緒に過ごしてたのは母さんしかいないから。」
「羨ましい限りですわね。それだけの強さがあれば、卒業後は引く手数多ですわね」
「それらも全て断るでしょうね。あの子は1人でも生きていけると思うし」
お互いに喋りながらも、モニターからは片時も視線を外さなかった。シーラは然る事乍ら、話し相手の女子生徒すらも、ケビンの隠された実力を聞いてしまっては目を離せずにいた。
(私の大事なケビン……闘技大会はつまらないでしょうけど、いっぱい楽しんでね)
シーラが極度のブラコンである事は、仲のいい女子生徒以外知る由もない事だった。
シーラ自体、仲のいい女子生徒がごく僅かしかいないのだが、その僅かな知り合いの中では有名な話だった。
そんな中、試合の中では事態が動きつつあったのだった。




