第26話 半年後
あれから半年の月日が経った。相変わらずカトレアは俺以外とは絡む気がないらしい。他から話しかけられれば返答するのだが、自分から行くことはない。
「みんなぁ、席についてぇ」
あれから変わった事と言えば、ジュディさんが喋り方を変えたぐらいだ。以前の喋りだと生徒との距離があったが、元々の喋り方に戻すと、生徒から色々と分からないことを質問されるようになったらしく、喋り方に対するアドバイスをした俺にお礼を言ってきた。
「今度クラス対抗の闘技大会があるから、その説明をしたいと思います」
この時期にやるとは、体育祭みたいなものか? 面倒くさそうだな。
「闘技大会は学年ごとに行われていて、クラス総当たり戦となります。ちなみに代表戦と全員参加の総員戦があります。代表戦は5人の代表を決めて闘技場で対戦するもので、総員戦は闘技場じゃ狭いので王都外にある野戦場で行います」
マジかよ。総員戦があるならサボれないじゃないか。当日になって腹痛とか起きないかな。
「ちなみにこれでEクラスより成績がいいと、クラスごとワンランクアップになります。逆にEクラスの人たちは、私たちよりもいい成績を残さないと、ランクダウンすることになります。つまり、自クラスより下位クラスがあると、下位よりもいい成績を残さないといけないのです。もし優勝することがあったら、私達はSクラスになりますよ。夢のある話ですね」
夢はあるが現実はそうはいかないだろ。現状、FがSに勝てるわけがない。せいぜいEクラス打倒に向けて頑張るしかないだろ。
「では、代表戦の選手から決めたいと思います。立候補する人はいますか?(チラッ)」
そこで俺をチラッと見るな。面倒くさそうな上に目立ちたくないんだよ。チラ見したところで立候補なんてしないぞ。
「う~ん、(チラッ)やはり立候補してくれる人はいませんねぇ。それでは、推薦形式にしましょう」
だから、チラ見するなというに。推薦するにしても名前をあまり覚えてないからなぁ、どうするか……? 名前は知らなくとも、顔見知りぐらいには顔を覚えたんだが。
「推薦でもダメですか……では、投票形式にしましょう。今から紙を配りますので、それに推薦する人の名前を書いてください」
さてさて、誰の名前を書くか……面倒くさいしカトレアでいいか。てか、カトレアしか思いつかない。そこそこ出来るやつだから問題ないだろう。
「みなさん書きましたか? では、書けた人からこの箱の中に二つ折りにして入れてくださいね」
その箱はいつ用意した? もしかして最初からこれが狙いか? だが、残念な事に俺に投票する奴はいないぞ。
何せ、この半年間は出来ない子アピールしまくったからな。【生命隠蔽】使ってまで影の薄さにも磨きをかけて、サボれるようにもなったし。
「それでは、開票しますね。まず始めは誰かな?」
箱の中に手を突っ込みながら、面白そうにガサゴソ選んでる。事情を知らない奴が見ると、最早クジ引きだな。
「ジャジャン!」
そして1枚の紙を取り出した。それにしても、効果音はいらないと思うぞ。何気に楽しんでないか?
「1人目はサイモン君です!」
誰だそいつ?
みんなの視線が集まっている方を見ると、多分あいつが“サイモン君”なのだろう。あぁ、見覚えがあるな……
武術の時にやたら先頭で走ってた奴だ。無難じゃないか。みんなもちゃんと考えているようだ。これで、俺が選ばれることは皆無に等しいな。
「次は誰かなぁ?」
またガサゴソしだしたな。サイモンが選ばれたって事は、武術や魔法の得意な奴の名前があがっていくだろう。
「ジャジャン! あら、またサイモン君ね。次行こ、次!」
おい、せっかく選ばれているのに、見当外れみたいな雰囲気出すなよ。サイモンが可哀想だろ。
「次はぁ……マイク君です」
みんなの視線の先には、魔法実技で頑張ってた奴がいた。
「続きましてぇ、ジャン! これも、マイク君です」
その後も、サイモンとマイクの票が続いた。
「代表戦は5人だから、あと3人違う名前が入ってないと、困るんだけどなぁ……」
そりゃ困るだろうよ。その場合は、サイモンとマイク抜きの投票にすればいいだろ。
「おっ、やっと違う名前が出た! マルシアさんです。ここにきて女の子が選ばれましたね!」
視線の先を追うだけで、誰なのかわかるのがありがたいな。マルシアもマイクと同じ魔法タイプのやつだな。しかし、次あたり武術タイプの名前が出ないとバランス悪くなるな。
その後は、その3人の名前がずっと続いていた。俺の書いたカトレアはまだ引かれてないようだ。
「残りはあと2枚ですか。あとのメンバーを決めるためには、もう一度投票するしかないようですね。次は……おっと、カトレアさんですね! これで、4人決まりました」
お、やっと俺の書いた投票用紙が引かれたか。あとは、再度投票して最後の1人を決めるだけだな。
「ケビン君、私の名前書いたでしょ?」
ジト目でこちらを睨んでくる。
「お前しか名前が思いつかなかったんだ」
「そう。それなら仕方ないよね?」
仕方ないよな。知ってる名前がカトレアだったんだから。それしか、思いつかなかったんだ。
「では、ラストを飾る投票用紙には、誰の名前が書かれているのでしょうか!」
サイモンかマイクかマルシアのどれかだろう。見るまでもないな。
「ドゥルルルルル……」
ノリノリになってきたジュディさんが、ドラムロールをやっている……テンション高いな。
「――ジャジャン! おぉっ!! パンパカパーン! ラストを飾ったのはケビン君です!」
何故だ!? 誰が書いた! てか、今まで以上のテンションだな!
「仕方ないよね?」
お前かぁ! ドヤ顔しやがって確信犯か!
「これで、無事に代表戦のメンバーが決まりました。先生は一安心です。あとは、総員戦の説明に移る前に、一旦、休憩とします」
休憩が終わり、ジュディさんが教室に戻ってきた。
「それでは、総員戦の説明を行います。フィールドは王都外にある野戦場を使うというのは先程言いましたね。野戦場は二種類あってその内、森になっている方を使います。もう1つは平原だけど、闘技大会では戦いにならないから使われてません」
平原だと魔法打ち放題だしな。搦手が出来ない以上、魔力量の多い方が勝つし。その分、森ステージなら格下でも格上相手に奮闘できるというところか。
「それと、野戦場には特殊な結界が張られていて、魔物が近寄れないようになっています。この結界には、生徒達の保護機能も備わっています。戦いになっても擦り傷程度で、それ以上の怪我などは一切しません。専用の武器を使い攻撃すると、対象は大怪我をするのではなく体力を奪われます。ちなみに体力が尽きると動けなくなる仕組みです。魔法も一緒で当たると体力を奪われます。ですので、思う存分戦えるようになっています」
すごい結界だ。怪我判定を体力で支払うのか。だから、実技はいつも走りこみから始まるのか。体力使いながら戦い、怪我すれば体力を奪われる。健康第一ならぬ体力第一だな。
「勝利判定は全員戦闘不能か敵陣の旗を壊すことです。全員戦闘不能は現実的ではないので、旗を如何に壊すかがポイントになってきます。倒したら勝ちではないのは、昔、遠距離からの爆風で倒れてしまって、さほど戦わずに勝敗がついてしまったからです。以降、“倒したら勝ち”は“壊したら勝ち”というふうに変わりました」
昔は棒倒しみたいなものだったのか。まぁ、魔法があれば棒倒しなんか楽勝だしな。爆風を利用するという案を考え出したやつは策士だな。
「どういう風に戦うかは生徒みんなで案を出してくださいね。意見は代表戦に選ばれた人が纏めるのが適任でしょう。では、サイモン君お願いしますね」
指名された生徒は教壇前に立つと、頭を掻きながら喋り出す。
「俺は体を使う方が得意で頭を使うのはからっきしだ。作戦なんて思いつかないから、みんなの意見を聞きたい。どうしたらいいと思う?」
そこで代表戦に選ばれていたマイクが喋り出す。
「幾つかのグループに分けて、それぞれに役割を決めたらどうかな?」
「グループに分けるとして、何グループに分けてどういう役割にするんだ?」
「斥候と攻撃と遊撃と守備の4グループでいいんじゃないかな?」
「じゃあ、そうするか。反対のやつはいるか?」
特に反対意見は出ないようだ。基本的なグループ分けだし、役割も問題ないと、生徒たちも感じたんだろう。
「じゃあ、あとは作戦をどうするかだな。何かいい案はないか?」
そこで喋り出したのは、これまた代表戦に選ばれたマルシアだった。
「初めての野戦なんだし斥候を少し多めで、その分遊撃を少なめにしたらどうかしら? 広いフィールドで遊撃が上手く機能するとは思えないわ。少数精鋭でいいと思うのだけれど。どうかしら?」
「確かに広いフィールドでは体力を使いそうだしな。それでいくか。それなら、遊撃部隊は体力のあるやつで固めた方がいいな」
「あと、斥候を潰されたら情報が得られなくなってしまうから、俊敏性がある人の方がいいわね」
「攻撃と守備は簡単だな。攻撃の得意なやつと守備の得意なやつに分かれたらいいだけだ」
さっきから発言しているのが、3人に固定されているな。もうこいつらだけで話し合えばいいんじゃないか?
「1つ付け加えたいんだけど、遊撃隊をさらに分けてその中に斥候を混ぜるのはどうかな? そしたら、斥候が潰されにくいと思うんだけど」
「確かにそうだな。それでいこう。とりあえず、斥候と遊撃が散らばり、攻撃は情報を得つつ進軍って感じでいいか? 守備は旗の防衛だな」
「問題ないと思うよ」
「私もそれでいいわ」
「よし、みんなもそれでいいか? 何か意見があったら遠慮なく言ってくれよ」
サイモンは教室を見渡しながら伝えるが、特に意見は出なかった。
「じゃあ、次はどの部隊に配属するかだが、みんなそれぞれ得意なやつで分かれてくれ。分かれ終わったら人数調整をするから」
その号令と共に、それぞれのグループへと分かれていく。断然、俺は守備を選ぶ。旗を守っていれば動かなくていいし……
俺が守備を選ぶと、何故かカトレアもついて来た。
「お前の能力なら、攻撃か遊撃だろ。何故、こっちに来る?」
「だって話せる相手がケビン君だけだし」
「他の生徒とも話している事があっただろ」
「あれは話してないよ。答えただけ」
「どんだけ拗らせてんだよ」
「いやあ、私って人見知りだし? 初対面の人とは上手く話せないし?」
「半年も経ってんだから、初対面じゃないだろ。むしろ、俺には初対面の時に話しかけてきたよな?」
「あれは隣の席だから……それくらいはしておこうと思っただけだよ。そしたら、思いの外面白い人だったから、平気だったんだよ」
「あれの何処に面白要素があった? 挨拶しただけだろ」
「ななな人に初めて会ったよ」
「何だよそれ?」
「『なっ!?』って驚いて、聞き返すと“な”で始まる言葉で返してくる人だよ」
「なっ!?」
そんな事したか俺? 全然覚えがないぞ。
「な?」
「な、何でもない」
「ほらね? ななな人でしょ?」
くっ! なんかこいつにいいようにされると腹が立つ。ここは我慢だ。ここで言い返せば、また何か言ってくるに違いない。
「よーし、みんな分かれたようだな。あらかたいい感じの人数には分かれたようだから、これでグループ分けは終わりだ。あとは、グループごとにどう連携を取るか考えてくれ」
そう言うとサイモンは、教壇の前から攻撃隊の方へと向かった。あとは、各隊ごとの連携というわけか。
守備隊の方は誰が指揮を取ってくれるのだろうか? いささか、黙り過ぎではないか? 誰でもいいから話を進めて欲しいものだな。
そんな様子を見ていたのか、ジュディさんがこちらへやってくる。
「守備隊はリーダーが決まらないの? ほかのグループは話を進めているわよ」
何たる団結力。守備隊にはない光景だ。早く誰かなってくれ。さっさとダラダラしたいんだよ。
「ここまで何も反応がないと先行き不安ね。じゃあ……ケビン君、あなたが守備隊のリーダーね、代表戦にも選ばれてるし。皆を纏めあげてね」
おい、待て。何サラリと厄介事を押し付けてるんだ。職権乱用だろ。
「それは、納得致しかねます」
ちょっとイラッとしたので軽く威圧を込めて返答する。
「うっ……でも、そうしないと話は進まないし、ケビン君の好きなダラダラが出来ないわよ?」
そうきたか……確かにダラダラはしたいが、面倒なリーダーなんてやってられない。
「ねぇねぇ、話を進めるだけ進めて、後でリーダーを別に決めたら?」
「それで決まらなかったら、結局俺がリーダーをする羽目になるだろ? というか、カトレア、お前がやれ。代表戦に選ばれてるだろ」
「嫌だよ。人と話せないし。でもこのままだと先生の言ったように、ダラダラする時間がなくなるよ。決まらなかったら、居残りになるかもしれないし」
「居残りは断固拒否する! 仕方ないから守備隊の方針を決めるぞ。《敵を見つけたら迎え撃て!》以上だ。解散」
「説明はないの?」
「今のに説明が必要か? 敵を見つけたら倒すだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。簡単だろ? とにかく話は終わりだ。嫌ならお前らでリーダーを決めて話し合え」
「もう、ケビン君雑だよ。先生もなんとか言って下さいよ。詳しい事が決まってないですよ」
「先生には無理かなぁ、妙に的を射た指示で否定しようがないし、まだ彼氏も出来たことない上に、結婚したいから生きていたいし、ははは……」
「意味わかんないよ」
守備隊はリーダーを決めるのが1番遅く、方針を決めるのは1番早かった。そそくさと分かれては、皆思い思いに残り時間を過ごすのだった。




