第24話 2日目
今日のところは遅刻なしにちゃんと学院に着いた。社長出勤は許されているが、2日目からそれをしたら目立つ事この上ない。まずは、影薄く馴染む感じで溶け込んでいこう。
(いてもいなくてもあまり気にならない、そんなポジションがベストだな。こんな時の為の、【生命隠蔽 Lv.6】。じんわり使う感じでやれば、いてもいなくても気にならない存在になれる筈だ)
基本的に努力は嫌いだが、自分の目的の為の努力は惜しまないつもりだ。
『マスター、そんなことに力を使わないで、友達作りに力を入れましょうよ』
『サナ、聞いてくれ。これが成功すれば、俺は気兼ねなくダラダラ出来ると思うんだ。さすがに足し算とかの授業を真面目に受ける自信が無い。そうなると次に考えるのは、如何にサボるかだ。教室で寝ていようが、バックれて何処かでサボっていようが、気にならない存在にならないといけない。それが出発点だと思うんだ』
『マスターって馬鹿ですよね』
『何を言う! 如何に授業中に創意工夫しバレずに寝れるか、試してみるのは男の浪漫だろ!』
『全世界の真面目に頑張っている男の子に謝ってください。そんな事に浪漫を求めているのは、一部の人間だけです』
そんなやり取りをしていると、教室についてしまった。
『さぁ、マスター。前か横の席の子に話し掛けて友達になるのです!』
『だが断る』
『そんなこと言ってないで、さっさと朝の挨拶を済ませて下さい! おはようって言うだけでしょ。たった4文字ですよ』
「おはよう」
「なっ!?」
「な?」
「何でもない。おはよう」
(おいおい、誰だこいつ? いきなり喋りかけてきたぞ!?)
『マスター、やったじゃないですか! 朝の挨拶成功ですよ』
『いや待て、誰だよ? こんな奴知らないぞ』
『何言ってるんですか? 昨日、自己紹介してたじゃないですか!』
「ケビン君でいいんだよね?」
「なっ!?」
「な?」
「名前は合っているぞ」
『おい、また喋りかけてきたぞ! どうなってやがる!』
『どうなってやがるのは貴方でしょ!』
『俺のどこがどうなってやがるんだ! 普通だろ!』
「考え込んでどうしたの?」
「なっ!?」
「な?」
「名前は何と言うんだ?」
「カトレア・リンドリーだよ」
『誰だよっ!?』
『だから昨日、自己紹介してたでしょ! マスター、初歩的な会話すらまともに出来てないじゃないですか! コミュ障確定です!』
『ふざけるな! 俺は、会話ぐらいしてのけるぞ!』
『じゃあ、今まで誰と会話しました?』
そこで俺は考える……今まで会話した相手……
『まず、ソフィ、家族、使用人、ガイル司教、サナ、クリスさん、ジュディさん、学院長、あぁ、あと、Aランク冒険者ぐらいか?』
『身近な人を除くと、それって全部大人ですよね? しかも、話しかけられて返した程度の薄い関係』
『ん? そうなるな。周りに子供なんていなかったしな。自分からは用もないのに話しかけないだろ』
『つまり! 人見知りする人が、初対面の人に事務的に返答しているようなものです! よって、ギルティ!』
『何故そうなる!?』
『真のコミュニケーション能力の高い人は、用がなくても話しかけるのです。何気ない会話をしてのけるのです!』
(な、なんだと……俺は、コミュ障だったのか? 別に不便な事がないから、自分からは話しかけていなかったが、それがコミュ障の原因なのか? 前世ではどうだった? 普通に会話してなかったか? ちゃんと就職もしてたし、仕事もこなしてた。それが、転生したらコミュ障になったのか?)
『もしかしたら、ラノベで出るんじゃないですか?【転生したらコミュ障だった件】って』
(ヤバい、マジでありそうで怖い。てか、サナのドヤ顔が想像出来て、なんかムカつく)
「ねえねえ、おーい、聞こえてる?」
そこで、呼びかけられていることに気づく。
「どうした?」
「やっと反応した。さっきから声をかけていたのに上の空だったよ。座らないの?」
(あぁ、そうだった。席につかなければ。このまま突っ立っていては目立ってしまう。とりあえず座って落ち着こう)
自分の席に座ると、両肘をついて手を組み、口元へと持ってきて考える。果たして、何を間違ってしまったのだろうか?
『勝ったな……』
『あぁ……』
『『……』』
『って何言わせてんだ! 違うだろ! つい、反応して答えちまったじゃねぇか!』
『さぁ、マスター。隣の子と会話するのです』
すると、隣から不意に話しかけられる。
「どこか調子が悪いの?」
「い、いや、そんな事はにゃい」
『ハハハハハッ! “にゃい”だってぇ……“にゃい”! シリアス醸し出しながら、噛んでるぅ。ハハハハハッ! マスターは猫の獣人なんですかぁ? あぁーお腹いたぁぁ……』
(くそっ! マジでこいつ腹立つわ! そもそもお前に腹なんてないだろうが! 何か攻撃できる方法はないのかよ!)
『ざーんねーんでーしたー! そんな方法あっても教えませーん』
『【転生したらサポナビがウザかった件】を今度執筆するぞ』
『いやぁ、私が主役ですか? しょうがないですねぇ、この隠しきれない主役のオーラ、バリバリですからねぇ』
(今のこいつには皮肉すら通じないのか。ウザさが天元突破してるな)
そんなこんなで、サナのせいでイライラしていると、どうやら隣の女は会話を止める気はないらしい……
「ねえ、ケビン君はダラダラするのが好きなの?」
「そうだが。何か問題でもあるのか?」
「いや、そんな事はないけど、学校での意気込みでは初めて聞いたから」
「そんなのは人それぞれだ」
「まぁ、そうだけど……普通は言わないよ? 先生の前なんだし。目をつけられちゃうよ」
目は既につけられているんだがな。監視目的で……そんなこと、言っても始まらないしどうでもいい事だが。
そこで初めて彼女の顔を見た。コバルトブルーの瞳に明るい感じのブロンドヘアーだった。
「おっ、初めて目が合ったね。照れ屋さんだから目を合わせないのかと思ってた」
俺は別に照れ屋などではないぞ。サナ曰く、コミュ障なだけだ。そう、サナ曰くだ。決して、認めた訳では無い。
「お前の瞳って綺麗な青色だな」
「――! そ、そんなことないよ。普通だよ」
「そうか?」
「そうだよ……(いきなり瞳のこと褒めてくるなんて、不意打ちすぎるよ)」
まぁ、本人がそう言うならそうなのだろう。こちらの世界では普通なのかもしれないしな。
キリのいいところでジュディさんが教室に入ってくる。
「出席を取るぞ。みんな席につけ」
出席を取られるなんて前世併せて何十年ぶりだろうか? 昔は「はい、元気です!」なんて言ってたもんだが、異世界ではどうなるんだ?
そんなことを考えていると、なんてことはない。登校して席に座っているかどうかだけ確認しているようだった。
これなら、社長出勤しても意外と目立たないのでは?
そもそも、いてもいなくてもバレないようにするのが目標だしな。それに、ジュディさんからしたら、いない方が助かるんじゃないか? 気を使わずに済むしな。
「今日の最初の授業は算術だ。将来役に立つから、しっかりと学ぶように」
マジか……まだサボる方法すら確立させていないのに、いきなりの算術か……仕方ないから、バレずに寝る方法を先に試そう。
「ケビン君、算術って得意? 私はあまり得意じゃないんだけど」
何故に話しかけてくる!? これがコミュニケーション能力を持つ者の凄さか!
ここで得意なんて口走ったら授業中わからない所は、全部聞いてくるに違いない。俺の安息の睡眠時間を確保するためには、不得意だと答えておかなければ。
「俺もあまり得意じゃない」
「そうだよねーややこしくて嫌になるよねー」
「そうだな」
よし、会話は打ち切りだな。ここからは俺のターン! まずは、肘をついて寝てみるか。うつ伏せだとモロバレだしな。
しばらくして……
「ケビン君、もしかして寝てない? ちゃんとノートに取らないと分からなくなるよ?」
何故だぁぁぁっ! 何故こうも話し掛けてくるんだ? コミュ充爆発しろ!
「そうだな」
肘付き寝入りは失敗だ……次はどうする? いっそのこと、瞼に目でも書いて寝てみるか? いやいやいや、早まるな俺! それをしては、ただの馬鹿だ。変人扱いされて目立ってしまう。
まず、ノートを取っている風に見せなくてはいけない。でなければ、また隣から言われてしまう。考えるんだ……何か方法があるはずだ。
①ペンを持ってみる。
②ノートに視線を向ける。
③瞼を閉じる。
これだ! これなら、自然に見える。如何にもノートをちゃんと取ってますよ的な。よし、実践だ!
また、しばらくして……
「ケビン君、やっぱり寝てるよね? 分かるよ、それ」
あぁ、神よ……
「お前は何故、俺に話し掛ける?」
「だって真面目に授業受けないと、先生に怒られるよ」
「俺はいいんだよ。怒られないから」
「どうして?」
「ジュディさんとは、ちょっとした知り合いだから」
「知り合いなら余計に怒られるんじゃない?」
「それはない。現に、今お前は授業中に話をしているにも関わらず、怒られていない。普通なら授業中の私語は慎めと怒られるが、怒られないのは、話している相手が俺だからだ」
「先生が気づいてないだけじゃないの?」
「気づいているぞ。こちらの様子を窺うために、チラチラと視線を向けている」
先程からチラチラと視線を向けてくるので、ウザイことこの上ない。何がそんなに気になるんだ。たかが、子供の会話だろうに。
「というわけで、俺には構わなくていい。ダラダラと過ごすのが目標だからな。お前は真面目に授業を受けてるんだな。先生に目をつけられるぞ」
これでもう話しかけてはこないだろう。引き続き寝るための姿勢を取ろうとすると、チャイムが鳴った……
「この授業はここまでだ。復習を忘れないようにやっておくんだぞ。では、休憩だ」
「……」
そうか、終わったのか……なんだこの敗北感は……全然、寝れてないぞ。トライアル・アンド・エラーで終わっただけじゃないか。
「ケビン君、休憩だってさ。思いっきり寝れるね」
そうだ、こいつが絡んでこなければ寝れていたんだ。こうなったら、無視するしかない。相手をするから増長するんだ。次の授業は何がなんでも寝てやる。
そう意気込む俺であったが、この発言がフラグだったとは知るよしもなかった……
再びチャイムが鳴り、皆が席に着くと、ジュディさんが教室に入って来た。
「よし、皆揃ってるな。次は魔法学の授業だ。あらゆる魔法の基礎になるから、真面目に受けるように」
終わった……寝れないじゃないか。まさかの受けたい授業が、次にくるとは……仕方ないから、寝るのは諦めよう。これさえ受けてしまえば、あとはもう大丈夫だろう。
「魔法とは、自身の中にある魔力を使って、現実に不思議な現象を起こすことを言う。魔法を当たり前に使える者は、常識として捉え、あまり不思議とは思わないかもしれないが、魔法の使えない者からしたら不思議にしか思えない」
実際、俺にも不思議としか思えない。魔法のない世界から来たからな。
「魔力にはわかりにくいかもしれないが、魔法そのものの威力の強さと、それに対し消費するエネルギーとが存在する。どちらの言葉に対しても、《魔力》という言葉を使うため、慣れないうちはこんがらがるだろう。一般的に魔力を込めれば強い魔法になるし、その分消費するエネルギーは増えるので、この2つは比例する関係とされている」
そうなんだよなぁ、ステータスは《MP》と《魔力》で別れてるからわかりやすいんだが、言葉にするといきなりややこしくなるんだよな。
「皆も洗礼を受けて知っていると思うが、ステータスの《MP》と《魔力》は言葉にすると、どちらも《魔力》だ。《MP》が自身の使えるエネルギー量で、《魔力》が魔法の威力に対する数値だ」
ジュディさんの授業は意外とわかりやすいな。基礎を知らない俺でもちゃんと理解できるぞ。
「ちなみに消費したエネルギーは、マナポーションを飲む事で回復させることができる。あとは、自然回復だ。これは、寝ている時が1番効率がいいとされている。起きていても回復はしていくが微々たるものだ。しかし、戦闘中に寝るわけにはいかないので、冒険者なんかはマナポーションを常備して一気に回復させたりする――」
それからも魔法学の授業は続き、あっという間にチャイムがなった。楽しい時間は過ぎるのが早いな。
その後の授業は、一般教養が続いたので全力で寝た。寝るのに全力を使うのもおかしな話だが。
こうして、2日目の学院生活は終わったのだった。




