第9話 調査
翌朝、三人の端末に同時に通知が入った。
『探索者協会より。錆鉄の遺跡の件でお話があります。本日中に窓口までお越しください』
「……あの件ね」
ミオが画面を見て顔をしかめた。
「報告してから数日ですね」
ソウタが言った。
「動きがあったんでしょう」
ダイスケは黙って端末をしまった。遺跡の壁に残っていたあの整った弾痕が頭から離れなかった。
*
協会の窓口で名前を告げると三人は奥の小さな部屋へ通された。
部屋には見覚えのある受付の女性と初めて見る男がいた。痩せていて顔色の悪い協会の制服姿の男だった。調査担当だと女性が紹介した。
「お時間をいただき、ありがとうございます」
男は淡々と切り出した。
「先日の亡骸の件です。協会で回収し確認を行いました。ベテラン級のホルダーでした。名前は遺族への連絡が済むまでお伝えできません」
「死因は」
ソウタが聞いた。
「銃創です。間違いありません」
男は机の上の端末を操作した。壁の写真が画面に映る。ダイスケたちが見たあの弾痕だった。
「壁の弾痕と遺体の傷を調べました。そして錆鉄の遺跡に出る機械兵やイレギュラーの武器と照合しました」
「結果は」
「一致するものがありません」
部屋の空気が少し重くなった。
「……つまり」
ミオがゆっくり言った。
「あの遺跡の敵がやったんじゃないってこと?」
「現時点では何とも言えません」
男は表情を変えずに続けた。
「ただ、この遺跡の浅層から中層は当面立入を制限します。深層には新人は入れません」
「え」
ミオが声を上げた。
「あたしたちが潜ってたのは浅いところだけ。中層もまだ」
「その浅層までは制限しません。ただ念のため無理はしないように」
女性が補足した。
「今回の報告に協会は感謝しています。協力の記録としてptを加算します」
ダイスケの端末に小さな数字が加わった。5pt。ミオにもソウタにも同じ数字が表示された。
「それと」
男が三人を順に見た。
「同じ種類の弾痕をもう一度見かけたらすぐに報告してください。そして決して近づかないように」
「近づくな、って」
ダイスケが思わず口を開いた。
「相手が何者なのか。それが分かるまでは危険です」
男はそれ以上何も言わなかった。
*
協会を出ると広場はいつもどおりの賑わいだった。
「なんなのよ、あの言い方」
ミオが石畳を軽く蹴った。
「何者か分からないものがいる。それを私たちに教える気はないってこと?」
「教えられないのかもしれません」
ソウタは静かに言った。
「協会もまだ分かっていないんだと思います」
「それって一番怖くない?」
誰も返事をしなかった。
ダイスケは空を見上げた。薄い雲がゆっくり流れている。
壁に残っていた整った弾痕。機械兵でもイレギュラーでもない何か。
(誰かがあそこにいる)
理由はやはり分からなかった。それでもそう感じた。
「ひとつ考えたんですが」
ソウタが口を開いた。
「錆鉄の遺跡は浅層の制限がこれから厳しくなるかもしれません。稼ぎ場としてはそろそろ限界です」
「じゃあ、どうするの」
「別の遺跡を探してみませんか」
ミオがふっと息を吐いた。
「次の新人向けの遺跡か」
「ええ。協会の資料にいくつか載っています」
ダイスケはうなずいた。
「行こう」
三人は並んで協会の資料室へ向かった。
錆鉄の遺跡に残してきたあの弾痕の意味をまだ誰も知らないまま。




