第8話 広告
それから数日、三人は錆鉄の遺跡に通い続けた。
浅い層の斥候型は、もう危なげなく倒せた。汎用型も無理をしなければ、なんとか相手にできる。
おじさんに教わったとおり、ソウタは盾を斜めに構える練習を続けていた。ミオも斬る瞬間に足を止めない動きを毎日繰り返していた。
ダイスケもスーパーキャノンの重さに少しずつ慣れてきた。
腕ではなく、腰と背中で受ける。それだけで反動による痺れがずいぶん違う。
ptは三人とも少しずつ積み上がっていた。
「ルーキーのまま、いつまでもいるわけにはいきませんからね」
ソウタは協会の端末で記録を確かめながら言った。
「500ptまで、まだ遠いけど」
「着実に、です」
その日の夕方、三人は協会前の広場を歩いていた。
*
広場の中央に大きな画面が立っている。企業の広告が順番に流れる場所だった。
足を止めたのはミオだった。
「あれ、見て」
画面には笑顔のマークが大きく映っていた。フレンドリー社だ。
『フレンドリー社 コラボ企画 第一弾』
最初に映ったのは黒く塗られた小ぶりなハンドガンだった。
『闇落ち、してみませんか?』
「……何それ」
『スマイルシューター用カスタムパーツ デビルニヒル。装填数11発から28発へ。射程・火力・連射性が1.2倍。静音性も向上。セール価格10,000バリュー』
「安いですね」
ソウタは画面を見上げたまま言った。
「通常は3万ですが、セールで1万。新人には手が出しやすい」
「でも、スマイルシューターが必要でしょ」
「そうです。うちには持っている人がいません」
ダイスケはなんとなく画面の黒いハンドガンを眺めていた。
画面が切り替わった。
*
次に映ったのは見覚えのある形をした、少し無骨なハンドガンだった。
『初心者向けのまま、魔改造。ディアブロハント。販売予定価格、180,000バリュー』
『12mm弾、装填数32発。無反動。静音性も高く、3点バーストに対応』
「無反動」
ソウタが小さくつぶやいた。
「12mm弾なら、僕のマシンピストルとダイスケさんの弾が使えます」
『銃身下部に特殊弾発射機構を搭載。切り札の電撃弾は、1発7,000バリュー』
「七千? 弾が?」
ミオが目を丸くした。
「宿代、七十泊分ですよ」
「高すぎでしょ」
『生き残れなければ、どれだけ稼いでも意味がない』
画面の最後に、そんな文字が流れた。
ダイスケはその一文を頭の中で繰り返した。
画面の隅には小さく『試作品』と書いてある。
「まだ、売っていないんですね」
「早く出したいみたいね」
*
三つ目の広告でミオが画面に身を乗り出した。
『リヴァイアサンドロー。ハッピートリガー、進化。価格、220,000バリュー』
「ハッピートリガー……!」
『14mm弾、装填数75発。毎秒7発。AI補助、索敵センサー、銃身内蔵ブレードを搭載』
「75発……」
ミオは画面を食い入るように見つめていた。
「ただ」
ソウタが画面の小さな注記を指した。
「内蔵ブレード付きなので、通常のナイフは取り付けられないそうです」
「え」
ミオの声が少し小さくなった。
「じゃあ、あたしのナイフは」
「付けられませんね」
ミオは腰のナイフに手を触れた。何も言わなかった。
『索敵センサーが敵の存在を知らせます。不意打ちを防ぎ、探索中の安全性を高めます』
ダイスケの視線が、ふとその一文で止まった。
遺跡の壁に残っていた、あの整った弾痕。
(不意打ち、か)
理由は自分でもはっきりしなかった。
*
広告が一巡して画面が別の企業に変わった。
三人は広場の端のベンチに腰を下ろした。
「で、どうする」
ミオが足をぶらぶらさせながら聞いた。
「共有の貯金は、まだ百万バリュー前後あります」
ソウタが答えた。
「買えない額ではありません」
「でも」
「ディアブロハントは試作品です。まだ販売されていません。リヴァイアサンドローは、ミオさんのナイフが使えなくなる。デビルニヒルは、そもそも対象の銃を持っていません」
ソウタは一つずつ指を折った。
「どれも今すぐ買う理由は、はっきりしません」
「見送り、か」
「いえ、検討です」
ソウタは少し笑った。
「情報が出揃ってから、考えましょう。実際に使っている人の話や評判が出てくるはずです」
ミオはふん、と鼻を鳴らした。
「慎重ね」
「おじさんに言われました。撃ちたい銃より、撃ち続けられる銃を選べ、と」
ダイスケは端末を取り出し、さっきの広告の画面を記録に残した。
「見るだけなら、タダだ」
「そうそう」
ミオがにっと笑った。
夕暮れのホルダー街に灯りがともり始めた。
三人の手の中には、まだ使い道の決まらない数字が残っている。




