第7話 PPSおじさん
汎用型の残骸は、協会の買い取りカウンターで斥候型のときよりずっと高く売れた。
ptも前回より大きく加算された。三人は少しだけ顔を見合わせた。数字は確かに増えていた。
「でも、盾が」
ソウタがヒビだらけのラッキーシールドを持ち上げた。
「買い替えか、直すか。どちらにしても、僕はもう少し装備のことを知らなければいけません」
「同感ね」
ミオが腕を組んで言った。
「あたしたち、銃の名前と値段しか知らないもの」
*
三人が向かったのは、ホルダー街の外れにあるPPS社の販売店だった。ソウタが、ある噂を聞いたと言った。
「PPS製品にやたら詳しい人がいるそうです。この辺りでは有名だとか」
店の奥には小さな射場がついていた。その射場の真ん中に一人の男が立っている。
中年の恰幅のいい男だった。ジャケットの下には体にぴたりと沿うアシストスーツ。腰の両側に同じ型のハンドガンが二丁。背中には箱型の銃。腰の後ろには短い刃が二本、重なって収まっている。
「おお。新人さんか」
男は三人に気づくと、にっと笑った。
「その顔は、PPSおじさんに会いに来たんだろう」
「PPSおじさん……?」
「みんな、そう呼ぶ。本名は教えん。おじさんでいい」
店員がカウンターの向こうで小さく肩をすくめた。
「あの人、協会でもコモン級ですよ。ptは七千台。PPS製品のことなら店員より詳しいです」
*
「まず、座れ」
おじさんは射場の椅子を三つ、勝手に引き寄せた。
「お前さんたちの装備、見せてみろ」
ソウタはヒビの入った盾を。ミオはハッピートリガーを。ダイスケはCC9を差し出した。
おじさんは一つずつ手に取って眺めた。
「ふむ。ラッキーシールド。これはアサルトライフルを受け続ける盾じゃない」
「はい。実際に、そうなりました」
「受けるな。流せ」
おじさんは盾を斜めに構えて見せた。
「真正面で受けると、弾の力が全部盾に乗る。斜めにして弾を滑らせる。それだけで持ちが変わる」
ソウタが真剣な顔でうなずいた。
「次。ハッピートリガー。フレンドリーか。ナイフを銃剣にする発想は悪くない」
ミオが少しだけ誇らしげな顔をした。
「で、このCC9」
おじさんはダイスケの銃に触れ、眉を上げた。
「C・C Loversのスーパーキャノンか。いい趣味だ。……だが、重いだろう」
「はい」
「重い銃は手首で止めようとするな。腰と背中で受けろ。腕はただの棒だと思え」
ダイスケは頭の中で昨日の射場の感触を思い返した。言われてみれば、その通りだった。
「……分かりました」
おじさんはしばらくダイスケの顔を見つめていた。
「お前さん、構えが妙に綺麗だな」
ダイスケは何も答えられなかった。
*
「次は、実物を見せてやる」
おじさんは射場の的の前に立った。
「PPS-TG-Soul heart。二丁拳銃だ」
腰の二丁を抜いた。
軽い、乾いた連射音。左右の的が同時に穴だらけになった。
「射角が広い。二丁だと視線を動かさずに左右を撃ち分けられる」
おじさんは続けて二丁の銃をカチリと連結させた。
「で、こうだ。タクティカルモード」
一つの武器になった銃が安定した連射を始めた。毎秒四発。先ほどより音が重く、まとまっている。
「連結すれば弾も共有化される。アサルトライフルみたいに構えられる。二つの顔を持つのが、こいつの強みだ」
「単発の火力は低いですよね」
ソウタが言った。
「その通り。だから強い相手には向かん。得意は取り回しと連射と射角だ」
*
「それから、PPSS5」
おじさんは背中の箱型の銃を下ろした。細かく手の入った跡がある。
「八ミリ弾のサブマシンガンだ。普段はセミオート。必要なときだけフルオートで弾幕を張る」
的が一発ずつ正確に撃ち抜かれた。そして、一息で金属板が蜂の巣になった。
「そして、弾の値段を考えろ。八ミリ弾は一発二バリュー。十二ミリなら五。十四ミリは八。十六ミリの狙撃弾は三十だ」
おじさんは指を一本立てた。
「撃ちたい銃より、撃ち続けられる銃を選べ。弾が尽きたホルダーは死ぬ」
ミオが静かにうなずいた。ダイスケもソウタも、同じようにうなずいた。
*
最後に、おじさんは腰の後ろから二本の短い刃を抜いた。
「PPSTN3。ツインナイフだ」
二本の刃が静かに空を切った。足運びは軽く、動作に無駄がなかった。
「ミオと言ったな。お前さんも、ちょっと振ってみろ」
おじさんはミオに練習用のナイフを渡した。
ミオはナイフを構え、目の前の標的に向かって踏み込んだ。刃が標的を切り裂く。
その瞬間、ミオの足が止まった。
「なるほどな」
おじさんがうなずいた。
「お前さんの動きは悪くない。ただ、足が止まる癖がある」
「え?」
「斬る瞬間に足が止まるんだ。止まった瞬間が一番危ない」
ミオは唇を結んだ。図星だったのだろう。
「ほら、もう一度やってみろ」
ミオは再びナイフを構えた。
*
日が傾く頃、三人は店を出た。
「あの人、本当に何者なの」
ミオが小さく言った。
「PPS製品の愛好家なんでしょう」
「それだけでptが七千台になる?」
「愛好家だからこそ、じゃないでしょうか。好きなものを極めた人です」
ソウタが少しだけ笑った。
「お前ら」
背中から、おじさんの声がした。
「装備の話ならいつでもしてやる。ただし、PPS製品の悪口を言ったら、その場で出入り禁止だ」
三人は思わず吹き出した。
「名前、教えてくれないんだね」
ミオが振り返って言った。
「おじさんは、おじさんだ」
男はそう言って、手をひらひらと振った。
夕暮れのホルダー街に、三人の笑い声が小さく響いた。




