第6話 スーパーキャノン
翌朝、三人はホルダー街の表通りに立っていた。
通りの端に小さな看板が出ている。「C・C Lovers」。C・C社の製品を専門にカスタムパーツを扱う店だ。
「ここが一番確実だと思います」
ソウタが言った。
「C・C LoversはC・C社の許諾を正式に受けた会社です。パーツの質も安全性も間違いありません」
「で、何を付けるの?」
ミオが店の看板を見上げたまま聞いた。
「ダイスケさんのCC9にスーパーキャノンを」
「サブでしょ、それ。ハンドガンなのに?」
「サブだと言われているのが今の問題なんです」
ソウタは少しだけ笑った。
*
店の中は整然としていた。壁一面にパーツが種類ごとに並んでいる。銃身、照準器、マガジン。どれもC・C社の銃に合わせた専用品だった。
「いらっしゃい。CC9だね」
カウンターの奥の店員はダイスケの腰を一目見て言った。
「いい銃だ。……ただ、サブ向きだと言われるでしょう」
「言われました」
「うちのスーパーキャノンを付ければ変わりますよ。弾はそのまま。中型イレギュラーでも破壊できる火力になる」
店員は小さな筒状のパーツを台の上に置いた。
「ただし全体が重くなる。反動も少し増えます。慣れるまでは手首を痛めないように」
九万バリュー。
ダイスケは自分の端末で支払った。JBSを売った金を三等分した自分の取り分からだ。
手に取ったCC9に店員が手際よくパーツを取り付けていく。
「試し撃ちは裏の射場でどうぞ」
射場の的は厚い金属板だった。
ダイスケは銃を構えた。引き金を引く。
ドン、と重い音が響いた。
金属板の中央が砕けていた。
手首に鈍い痺れが残る。確かに重い。反動も前より少し強い。
けれど銃口はぶれなかった。
「……すごい」
ミオが小さく息を呑んだ。
「これが同じCC9なの」
ダイスケは自分の手の中の銃を見つめた。
扱い方が手に馴染んでいた。重さも反動も体が先に分かっていたような気がした。
*
協会の掲示板には新人向けの依頼が貼り出されていた。
「錆鉄の遺跡・汎用型機械兵の討伐」。
「汎用型ですね」
ソウタが依頼書を指でなぞった。
「斥候型より一段上の機械兵です。アサルトライフルを持っています」
「アサルトライフル、か」
ダイスケは腰のCC9に触れた。
「今なら、いけるかもしれない」
三人は依頼書を受付に出し錆鉄の遺跡へ向かった。
*
遺跡の中は前回と同じ錆と金属の匂いがした。
浅い通路を慎重に進む。斥候型はもう三人の相手ではなかった。
ミオのハッピートリガーが短く唸りソウタが倒れた機械兵の部品を回収する。
通路の先に大きな広間があった。
中央に一体の機械兵が立っている。斥候型よりひと回り大きい。胴体は厚く両腕でアサルトライフルを抱えていた。頭部のレンズは三つ。
「汎用型です」
ソウタが壁際で息を殺して言った。
「動きは重いですが弾幕が厚い。盾で受け続けるのは危険です」
「じゃあ、どうするの」
「僕が正面で引き付けます。ミオさんは側面から。ダイスケさんは一番後ろから」
「一撃で仕留められるか」
ダイスケが聞いた。
「分かりません。でも、やるしかない」
ソウタはラッキーシールドを構えた。
*
機械兵がこちらを向いた。
ソウタが広間へ飛び出した。
乾いた連射音が広間を満たした。銃弾がシールドに叩きつけられ火花が散る。ソウタは歯を食いしばり一歩ずつ前へ進んだ。
「長くは持ちません!」
盾の表面に細いヒビが走った。連続射撃には耐えられない。それは最初から分かっていたことだった。
ソウタは機械兵の目前で盾を叩きつけた。
バチン、と電流が走る。機械兵の動きが一瞬だけ止まった。
「今です!」
ミオが横から駆け込んだ。
ハッピートリガーが火を噴く。レーザーサイトの赤い点が機械兵の腕に突き刺さる。
だが装甲は弾を弾いた。
「硬い!」
機械兵がミオのほうへ銃口を向けた。
「ミオ、伏せろ!」
ダイスケは引き金を引いた。
ドン、と腹に響く音。
スーパーキャノンの一撃が機械兵の胴体を貫いた。装甲が裂け内部から火花が噴き出す。
機械兵は構えたままの姿勢で動きを止めゆっくりと崩れ落ちた。
広間に静寂が戻った。
ダイスケの腕は反動でじんわりと痺れていた。それでも銃口はまだまっすぐに前を向いていた。
「……倒した」
ミオが床に伏せたまま呟いた。
「一発で?」
「一発だ」
ダイスケも自分で驚いていた。
*
三人は倒れた汎用型の周りに集まった。
装甲には大きな穴が開き内部の回路が見えている。ソウタのシールドはヒビだらけになっていた。
「盾はぎりぎりでしたね」
ソウタが苦笑した。
「アサルトライフルに耐えられる盾じゃありません。でも盾があったから時間を稼げた」
「あんたの銃、なんなの」
ミオがダイスケに向き直った。
「CC9のままだ。パーツを一つ付けただけで」
「それがおかしいって言ってるのよ」
ミオはふんと鼻を鳴らした。
「普通、サブウェポンでここまでは無理でしょ」
「そうですね」
ソウタが言った。
「ダイスケさんの銃は最初から価値のあるものだったのかもしれません」
ダイスケは手の中のCC9を見つめた。
誰に教わったのか。誰が持たせたのか。
この手はどうしてこの銃の使い方を知っているのか。
答えはまだ遠い。
三人は汎用型の残骸を鞄に詰め始めた。遺跡の奥は静かだった。




