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前衛戦線  作者: Nexus


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第5話 買い取り

遺跡の出口を抜けたとき空は夕焼けに染まっていた。


天都の外れからホルダー街までは歩いて戻れる距離だった。三人とも鞄は重く足取りも重い。それでも誰も立ち止まらなかった。


「まず、協会に寄りましょう」


ソウタが言った。


「機械兵の素材は協会で売ります。民間のほうが高く買ってくれることもあるそうですがptがもらえるのは協会だけです」


「ptは、欲しいもんね」


ミオが鞄を担ぎ直しながら言った。


「ルーキーのままじゃ、いつまで経っても組んでもらえないし」


ダイスケは黙ってうなずいた。500ptまで、まだ遠い。それでも最初の一歩だった。


   *


協会の買い取りカウンターは夕方でも混んでいた。


順番を待ち受付の女性の前に三人は鞄の中身を並べた。斥候型の部品。マシンナイフとマシンピストルは売らずに鞄の底に残した。


女性は一つずつ手に取り淡々と査定を進めていった。


「状態は悪くありません。斥候型の部品として合計で五百四十バリューです。ptも加算します」


手元の装置に三人の記録が表示された。


「ダイスケさん、12pt。ミオさん、9pt。ソウタさん、10pt」


数字は小さい。それでもダイスケは画面から目が離せなかった。0だった自分の記録に初めて数字が増えている。


「それと、一つ報告があります」


ソウタが遺跡で見つけた亡骸の位置と壁の弾痕について話した。受付の女性は表情を変えずに聞き、それから手元の記録に書き込んだ。


「確認します。ご協力ありがとうございました」


それだけだった。


協会にとっては珍しくない報告なのかもしれない。それでもダイスケの胸にはあの整った弾痕が引っかかったままだった。


五百四十バリューは事前の取り決めどおり三等分した。一人あたり百八十バリュー。宿代を払ってもまだ余る額だった。


   *


「次は、あのライフルです」


ホルダー街の裏通り。ソウタが案内したのはフレンドリー社の傘下の店だった。


看板には笑顔を模したマークが描かれている。店内には手頃な値札のついた銃が壁一面に並んでいた。


「いらっしゃい! 新人さんかい?」


陽気な店主がカウンターの奥から顔を出した。


「買い取りをお願いしたいんです。これを」


ダイスケが鞄から出したJBSをカウンターに置いた。


店主の笑顔が一瞬で消えた。


「……おい。これ、JBSじゃないか。しかも限定モデルだ」


店主は慎重に銃を持ち上げ全体を眺めた。装弾数、銃身、刻印。隅々まで確かめてから大きく息を吐いた。


「どこで手に入れた」


「遺跡で拾いました」


ソウタが淡々と答えた。


店主はそれ以上聞かなかった。遺跡で拾った武器は拾った者のものだ。それがホルダーの世界の決まりだった。


「十六ミリ弾は八発しか残ってないな。それでも、これは今品薄なんだ。元の値段の百五十万よりずっと高く買える」


店主は少し考えて指を二本立てた。


「二百万バリュー。どうだ」


ミオが息を呑んだ。


ダイスケはソウタを見た。ソウタは小さくうなずいた。


「お願いします」


支払いは電子マネーのDバリューで行われた。三人の端末に桁の違う数字が静かに入っていく。


ダイスケはその数字をしばらく見つめていた。昨日まで無一文だった。


「これで……宿に困らなくなったな」


「それだけで終わらせるのは、もったいないですよ」


ソウタが静かに笑った。


   *


装備はソウタが先に決めた。


「ミオさんには、これがいいと思います」


ソウタが指したのはフレンドリー製のアサルトライフル、ハッピートリガーだった。十五万バリュー。軽量でレーザーサイトが標準装備。そして銃身に手持ちのナイフを取り付けられる。


「ナイフを、銃剣にできる」


ミオが棚の前で足を止めた。


「今のあなたの戦い方に一番合う銃です。ナイフを手放さずに距離も取れる」


ミオはしばらく黙って銃を見つめていた。それからふいと目を逸らした。


「……別に、欲しいなんて言ってないから」


そう言いながら手は銃から離れなかった。


ソウタには拾ったマシンピストルとマシンナイフを持たせることにした。


ミオは自分のナイフを銃剣にするので機械のナイフはソウタに回った。マシンピストルは十二ミリ弾を使うためダイスケの弾がそのまま使える。


「僕の本業は盾です。でも、撃てるものがあればお二人が楽になります」


弾薬はミオ用の十四ミリ弾を買い足した。ダイスケの十二ミリ弾はソウタと分け合うことにした。


防具も揃えた。ソウタには電撃を流せるラッキーシールドを。そして三人分のラッキーアーマーを。軽くて頑丈なのが決め手だった。


店主が会計の途中でダイスケの腰のCC9にふと目を留めた。


「兄ちゃん。いい銃を持ってるな」


「……そうですか」


「ああ。大事にしな。そいつは、安い銃じゃない」


ダイスケは無意識に腰のハンドガンに触れた。


記憶のない自分がなぜこんな銃を持っていたのか。その問いがまた頭に浮かんだ。


   *


ホルダー街の安宿は一部屋百バリューだった。


三人で一部屋を借りる。ベッドは二つしかなくミオが無言で一つを占領してソウタが床に毛布を敷いた。


「ちょっといい宿にしてもいいんじゃない? お金、あるんだし」


ミオが天井を見たまま言った。


「いえ、安宿のままにしましょう」


ソウタが答えた。


「お金は、まだ必要になります。僕たちには足りないものが多すぎます」


ミオは不満そうに鼻を鳴らした。それでも反論はしなかった。


ダイスケは窓の外を眺めた。ホルダー街の灯りが遠くまで連なっている。


宿代に困っていた昨日がずいぶん昔のことに思えた。


そして遺跡の壁に残っていた整った弾痕。それが何だったのか、まだ分からない。

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