第4話 弾痕
斥候型の残骸を担ぎ三人はさらに奥へ進んだ。
最初の一体を倒してから遺跡の景色は少し違って見えるようになった。通路の角や天井の配管、床に散らばる部品。どれも「敵が潜む場所」ではなく「次の稼ぎ場所」に見えてくる。
二体目の斥候型はミオの動きで止まった。ソウタの盾が撃たれた弾を受け止める。
その横を駆け抜けたミオが機械のナイフで関節の隙間を断ち切る。ダイスケが頭部を撃ち抜くと機械兵は音を立てて崩れた。
三体目はもう三人とも慣れた動きで片づいた。
「悪くないじゃない」
ミオが息を弾ませながら倒れた機械兵を蹴って向きを変える。強がりだと分かっていてもダイスケは口に出さなかった。ミオの口元は少しだけ緩んでいた。
「残骸も、もう結構な量になりましたね」
ソウタが背負った鞄の重さを確かめるように言った。彼の腕はまだ細いが盾を構える姿勢は最初より安定している。
「十分、稼いだんじゃない?」
「宿代には届きそうです。でも、もう少し奥を見てから戻りましょう」
そう言って三人は通路の突き当たりを曲がった。
*
最初に気づいたのはダイスケだった。
壁際に誰かが座っている。
壁にもたれたまま動かない男だった。体格がよく使い込まれた装備を身につけている。頭は力なく垂れていた。足元には銃が二丁転がっていた。
三人とも足を止めた。
「……死んでる」
ミオが小さく言った。声に強がりは混じっていなかった。
ソウタがゆっくり男に近づいた。しばらく黙って立ちそれから両手を合わせた。ダイスケもそれに倣った。ミオは視線を逸らしたまま拳を握っていた。
「武器が……残っています」
ソウタが顔を上げた。
足元の二丁のうち一丁はハンドガンだった。PPS8。見覚えのある型だ。そしてもう一丁は長い銃身を持つスナイパーライフル。
「JBS……」
ソウタがほとんど息のような声でつぶやいた。
「150万バリューのライフルです。新人が持てるものじゃありません。この人はベテランですよ」
ダイスケはスナイパーライフルを拾い上げた。ずしりと重い。弾倉を確かめると八発残っていた。
「16mm弾だ。俺のCC9の弾は合わない」
「八発だけ、ですね」
そのときソウタが壁に目を向けた。
「……おかしい」
「何が」
「この壁です」
ソウタは壁に刻まれた弾痕を指でなぞった。何カ所もある。深く整った跡だった。
「機械兵の弾はもっと浅くて広がります。さっきの斥候型の弾痕はこうじゃなかった」
「じゃあ、何の跡よ」
「分かりません。ただ……」
ソウタは言葉を選ぶように間を置いた。
「この辺りで一番強いのはさっきの斥候型のはずなんです。協会の資料でも新人向けの遺跡とされていました。なのに、ベテランがここで」
誰もすぐには答えられなかった。
「なぜ、ベテランがこんなところでやられるんだ」
ダイスケが小さく言った。
答えはなかった。
通路の奥は暗かった。何かが潜んでいる気配はない。それがかえって不気味だった。
*
「戻りましょう」
最初に言ったのはソウタだった。
「え、まだ奥があるのに」
ミオが言いかけて口をつぐんだ。男の姿をもう一度見たからだった。
「この銃だけで今日は十分すぎるほど稼げます」
ソウタは静かに続けた。
「ベテランが死んだ場所で僕たちが無理をする理由はありません。理由が分かるまで深入りは危険です」
ダイスケはうなずいた。
「残骸を持てるだけ持ってすぐ出る」
三人は手早く動いた。倒した斥候型から取れる部品を鞄に詰め使えそうなマシンピストルとマシンナイフも拾い集める。PPS8とJBSはダイスケの鞄の一番奥に収めた。使うか売るかは地上で決めればいい。
男の亡骸にはソウタがもう一度短く頭を下げた。
「行きましょう」
来た道を足音を殺して戻る。通路の角を曲がるたびにダイスケは背後を振り返った。
誰もいない。何もいない。
それなのに見られているような感覚だけが背中に張りついていた。
出口の光が見えたときミオが小さく息を吐いた。
「……なんだったの、あれ」
誰も答えられなかった。
壁に残っていたあの整った弾痕。その意味を三人はまだ知らない。




