第11話 収支
パンドラ遺跡から戻った三人はその足で協会の素材買い取り所へ向かった。
「どうか、いい査定になりますように」
ミオが小さくつぶやいた。
査定は人によって、日によって変わる。同じ素材でも値の付き方に差が出る。ダイスケはそれを前回の錆鉄で学んでいた。
カウンターの向こうで白髪の査定人が熊型の毛皮を広げた。
「ほう」
査定人は毛皮の傷を一つずつ指でなぞった。
「胸元に一発だけ。急所を貫いて他に傷がない。毛皮が、ほとんど無傷だ」
「一発で倒しましたから」
ダイスケが答えると査定人は少しだけ目を細めた。
「いい仕事だ。中型の素材は傷が少ないほど値が付く。……よし」
査定人は端末を叩いた。
「熊型の毛皮と牙、うさぎ型の素材。あわせて三万バリュー」
三人は思わず顔を見合わせた。
「さ、三万……」
「ptも付ける」
ダイスケの端末に数字が加わった。38pt。ミオが31pt、ソウタが34pt。三人ともptが百を超えた。
*
素材の代金は三等分され、それぞれの端末に振り込まれた。
「ちょっと、計算しましょうか」
協会の外のベンチに座りソウタが端末を取り出した。
「今日の収入は三万バリュー。そこから使った弾薬代を引きます」
「弾?」
「ダイスケさんの十二ミリ弾が六発で三十バリュー。ミオさんの十四ミリ弾が四十発で三百二十。僕のマシンピストルが三発で十五」
ソウタは指を折りながら続けた。
「合計で三百六十五バリューです」
「安いじゃない」
「そこまでは安いんです。問題は、これです」
ソウタは胸元からボロボロになった耐衝撃フィルムの残骸を取り出した。
「一枚、二万バリューです」
「あ」
ミオが息を呑んだ。
「三万の稼ぎのうち二万が、このフィルム一枚で飛んだってこと?」
「そうです。弾薬代とフィルムを引くと手元に残るのは約九千六百バリュー」
三人はしばらく黙ってその数字を見つめていた。
「……フィルムを使うと稼ぎの三分の二が消えるのね」
「でも、ソウタが無事だった」
ダイスケが静かに言った。
「命の値段が二万バリューなら安い」
ソウタは少しだけ驚いた顔をして、それから小さく笑った。
「そう考えると、そうですね」
*
その夜、三人はいつもの安宿の前に立った。
「ねえ」
ミオがためらうように口を開いた。
「あたし、一人部屋にしたい」
「え」
「べ、別にあんたたちが嫌なわけじゃないのよ。ただ、ずっと一部屋で三人で過ごしてるから」
ミオは顔をそむけた。耳が少し赤い。
「いいんじゃないか」
ダイスケがすぐに答えた。
「賛成です。僕たちは二人で一部屋にしましょう。一部屋百バリューですから二部屋で二百。今は問題ありません」
ソウタもそう言った。
「……ありがとう」
ミオは小さな声でそう言った。
宿の受付で二部屋分の百バリューを二回払った。
ミオは鍵を受け取ると部屋に消える前にふと振り返った。
「おやすみ」
「おやすみ」
扉が閉まる。
ダイスケとソウタは顔を見合わせて小さく笑った。
*
部屋の明かりを落としてもダイスケはすぐには眠れなかった。
端末を取り出すと画面に広告が流れていた。
『宙に浮く、自動迎撃兵器。Astra。古代遺跡の技術を使用。バッテリー不要』
「なんだ、これ」
隣のベッドからソウタがのぞき込んだ。
「Astra社の処女作だそうです。12mm弾を50発装填していて、持ち主が許可を出すと射撃します」
「勝手に撃つのか」
「許可を出すまでは撃ちません。使い込むとAIが学習して他のホルダーを攻撃対象から外してくれるようです」
「便利だな」
「価格は500万バリュー」
ダイスケは思わず画面から目を離した。
「……遠いな」
「ええ。でも見ておくと役に立つかもしれません」
ソウタはそう言って毛布をかぶった。
ダイスケはもう一度画面の球体を見つめた。宙に浮かぶ小さな守り手。
(不意打ちを、防げるなら)
壁の弾痕のことがまた頭をよぎった。
ダイスケは端末の画面を閉じて目を閉じた。




