第5話:銀鱗の輝きは誰がために。美食の街の再生
「ひぎぃっ!? つ、冷たい、冷たすぎますー!」
サザーンの巨大倉庫。海運ギルド長ザックの絶叫が響き渡る。
アンとリズによって数分で「掃除」が完了した倉庫内で、ザックはリズの氷結魔法により、首までガチガチに固められていた。
「あら、騒がしいですわね。リズ、その氷の温度をあと3度下げて差し上げて」
エカテリーナは扇子で顔を半分隠しながら、冷淡に言い放つ。
「はーい、キンキンに冷やしちゃいますねー。あ、お魚の鮮度を保つのと同じ魔法なので、ザックさんもピチピチになれるかもしれませんよー?」
「リズ、それは無理というものよ。素材(人間性)が腐りきっていますもの」
アンが無表情に補足し、さらにザックの顔が青ざめる。
エカテリーナは、ザックが抱え込んでいた金貨の袋を、汚い物を見るような目で見つめた。
「……わたくしの『結婚資金』? その程度の端金でわたくしを売るなど、美学のかけらもありませんわ。わたくしが求めているのは、この街の誇りである『銀鱗イワシ』が、最も美味しい状態で民の元へ届くことだけですの」
彼女は懐から、眩い光を放つ魔道具を取り出した。王家の魔法刻印――その全権発動形態である。
「聞きなさい。ルミナス王家が名において命じます。海運ギルドの全資産を凍結し、不当に徴収したイワシを今すぐ市場へ開放なさい。拒否するなら……この刻印の魔力が、あなたの心臓を直接『凍結』させることになりますわ」
刻印が放つ黄金のプレッシャーに、ザックは白目を剥いて失神した。
「……ふん。気絶する暇があるなら、自分の犯した醜態を鏡で数えればよろしいのに」
数時間後。サザーンの市場は、かつてない活気に包まれていた。
「イワシだ! 本物の銀鱗イワシが帰ってきたぞ!」
「エカテリーナ姫がギルドをぶっ潰してくれたんだってよ!」
民衆の歓声が港中に響き、その熱気が街を包む。
港を見渡すテラス席で、エカテリーナはハチが焼いたばかりのイワシを口に運んだ。
「……素晴らしい。この皮目の焦げ具合、そして溢れ出す脂。これぞサザーンの美学ですわ」
「お嬢様、見てください! 街の人たちがみんな笑ってます!」
ハチが頬をイワシで膨らませながら、嬉しそうに声を上げる。
「活気は最高の美容液ですわ。人々の笑顔があれば、この街の空気も淀みませんもの」
エカテリーナは満足げに頷き、ふと雷牙が持ってきた「証拠品」に目を向けた。
「お頭、これを見てくれ」
雷牙が差し出したのは、ザックの執務室の裏に隠されていた一通の指示書だ。そこには、第一王子・アルベルトを篭絡し、その権限を我が物のように振舞っていたあのマリアの署名とともに、各地で集めた献上金を『隣国』へ送るよう指示する内容が記されていた。
「……マリア。あの娘、ただ王子殿下の愛妾を気取っていただけではないようですね。ベルン領の税の不正な流れにも関与していると思われます」
アンの言葉にエカテリーナの瞳に、鋭い光が宿る。




