第34話:毒舌姫の名のもとに
王都の目抜き通りは、異常な静寂に包まれていた。マリアの「救済」という名の毒に冒され、虚ろな目で地べたに座り込む民たち。だが、そこへ銀鱗の旗をなびかせて進むエカテリーナ一行が現れると、その空気は一変した。
「……見て。エカテリーナ様だ。追放されたはずの、姫様が戻られたぞ!」
一人、また一人と、中毒で霞む目をこすりながら民が立ち上がる。
「皆さま、道をお開けなさい! 穢れを祓い、この街に真実の夜明けを連れてまいりましたわ!」
エカテリーナが黄金の小瓶を掲げ、凛とした声を響かせる。その背後から、マリアに洗脳された清貧騎士団が、抜身の剣を手に立ちはだかった。
「そこをどけ、不浄なる反逆者ども! 聖女様の命により、これ以上城へ近づくことは許さん!」
「あら、不純物のお掃除が必要なようね。……アン、リズ、雷牙、シオン。存分に懲らしめてやりなさい! わたくしの歩みを一歩たりとも止めさせないこと」
エカテリーナの命令を合図に、従者たちの空気が一変した。
「承知しました」
アンが刀の柄に手をかけた瞬間、抜刀の音さえ置き去りにし、最前列の騎士たちの盾が紙細工のように両断された。
「ひゃっほう!」
雷牙が地を蹴ると、大理石の床が蜘蛛の巣状に砕け散る。その巨体からは想像もつかない瞬発力で、騎士団の密集陣形を文字通り「消し飛ばして」いく。
「……エカテリーナ様の邪魔をするな! 汚らわしい男どもが!」
シオンが騎士たちの死角から死角へと移動し、首に小刀を刺し込み時間差で爆破する。
「ちょうど試したい魔法があったんですよねー」
リズが杖を高々と掲げると、騎士団後方の地面に魔法陣が浮かび上がる。そこから無数の蛇が飛び出し、騎士達に次々と噛みつき石化させていく。
血塗れの白衣をなびかせ、リズが楽しげにメモを取る。
その圧倒的な強さに、民衆の心に宿っていた恐怖が、熱い期待へと変わった。
「姫様が行くぞ! 俺たちも続くんだ! あの偽物の聖女に、奪われた日常を返してもらおう!」
「そうだ! エカテリーナ様こそが、真の王族だ!」
一人の男が叫ぶと、数千の民が怒涛の勢いで蜂起した。武器はなくとも、彼らの意志は巨大なうねりとなり、騎士団の包囲網を内側から崩していく。
エカテリーナは、自分を信じて道を切り拓く民と従者たちを見つめ、力強く頷いた。
「……マリア。民の心を弄んだ報い、その目に焼き付けなさい」
一行は王城の巨大な正門を突破し、偽りの聖域へと足を踏み入れた。




