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第33話:黄金の解毒薬

倉庫の外、夜風に乗り出した黒煙が王都の空を覆っていた。エドワード王子の絶叫を背に、エカテリーナは一刻も早くこの場を離れるべく歩を進める。その眼前に、一台の質素な馬車が猛スピードで滑り込んできた。


「エカテリーナ様ー! 完成しましたよー」


御者台から飛び降りたのは、血塗れの白衣を纏うリズだった。その手には、厳重に封印された小さなクリスタルの瓶が握られている。中には、黄金色に輝く液剤が揺れていた。


「リズ、それは……」


「はい、忘念草の毒を中和し、強制的に脳の覚醒を促す、現時点で考えうる最強の解毒薬です。街中が中毒患者だらけだったので片っ端から研究材料にしたら思ったよりはやくできましたー」


エカテリーナはあえて深く研究内容にツッコまず、その瓶の輝きを愛おしそうに見つめた。


「素晴らしいわ、リズ。これがあれば、民を救えるのね?」


「……ですが、問題が一つ。この薬は少ししか作れなかったので、普通に散布しただけでは、すべての王都民には届きません。これを周囲の村含め王都全域に、そして人々の精神の奥底まで浸透させるには、強大な魔力の『触媒』が必要になります」


リズの言葉に、アンと雷牙が顔を見合わせた。


「触媒……。つまり、誰かがこの薬に自らの魔力を乗せて、王都全域に拡散させなければならないということかしら?」


「人の心を揺り動かし、偽りの救済を上書きするほどの、強烈な魔力または意思を持った輝きですねー」


エカテリーナは静かに扇子を閉じると、王城を見上げた。そこは王都で最も高く、魔力の伝播に最適な場所だ。


「リズ、その薬をわたくしに。触媒なら、ここにありますわ」


「いえいえー、わたしがやりますよー。危険ですから。 王都全域に広げるほどの魔力やそれに類する力の拡散は術者の精神に多大な負荷が……」


「……ありがとう。でも結構ですわ。わたくしの身に何かあれば、あなたが支えなさい。アン、リズ、雷牙、シオン。城までの道は、一秒たりとも無駄にできません。……わたくしがこの手で、王都に溜まった穢れを、この黄金の光で一掃して差し上げます。ハチも私から離れずついてきなさい」


エカテリーナの宣言に、従者たちは静かに、しかし力強く跪いた。


「私はエカテリーナ様の剣くらいしか務まりません。お許しください」


「それくらいならまかせときなって」


「おい雷牙、おまえ態度が軽いぞ! 真面目にやれ!」


「とりあえず王城へれっつごー」


「リズはいいのかよシオン」


「この軽さがリズ様のよさだ。お前は真面目にやれこの筋肉達磨が」


「お前初めて会った時と性格変わったよなー。ちょっと歪んでて先行き心配だわ」


「まあまあ、これが終わったら腕によりをかけておいしいもの作りますから、皆さん頑張ってください! 私も必死についていきます!」


落ち込む雷牙を尻目に、少し苦笑いでエカテリーナはリズから受け取った瓶を高く掲げた。

燃える倉庫の火を反射し、黄金の液体はまるで夜明けの太陽のように、一行の行く先を照らし出していた。


「行きましょう。……マリア、あなたの偽りの奇跡、この光で跡形もなく消し去ってあげますわ」


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