第31話:汚れた第一王子
「離せ! 不浄な女の従者どもめ、この私を誰だと思っている! 俺は聖女マリアに選ばれし第一王子エドワードだぞ!」
燃え盛る倉庫の中、エドワードはシオンに組み伏せられ、無様に地面を這っていた。その傍らでは、ジョセフがアンの居合いによって四肢を断たれた。達磨のように転がるジョセフを雷牙が燃え盛る木箱の山で放り込んだ。
「……あ、あつい! 助けてくだされ、殿下ぁ!」
「司祭! おのれ、エカテリーナ、貴様には人の心がないのか!」
――乾いた音が、爆ぜる炎の音をかき消した。
エカテリーナの右手が、エドワードの頬を鮮やかに打ち抜いていた。衝撃に目を見開く兄の襟首を、彼女は一切の容赦なく掴み上げ、至近距離でその瞳を射抜いた。
「どの口がおっしゃるのかしら、お兄様。……ハチ、鏡を」
「はいっ!」
ハチが差し出した手鏡を、エカテリーナはエドワードの顔面に突きつけた。
「その濁った瞳、鏡で見なさい! 聖女とやらに魂を明け渡し、民に毒を配り、挙句の果てには救いを求めた少女さえ死に追いやった……。それが、お兄様の成れの果てです」
鏡に映った自分――血走り、忘念草の影響で瞳孔が開いた虚ろな目。マリアの言う「清純」とは程遠い、恐怖に歪んだ醜い男の姿に、エドワードは一瞬だけ絶句した。
「そ、れは……マリアが、浄化の過程だと……」
「いい加減に目をお覚ましなさい! 見苦しいですわ、お兄様!」
エカテリーナはゴミを見るような目で兄を突き放した。
「アン、その男を頑丈な鎖で柱に拘束しなさい。……今、その歪んだ脳漿を無理やり浄化しても、中身が空っぽでは意味がありませんわ。彼には、マリアという虚像が崩れ去るのを、その濁った瞳で特等席から見ていただく必要がありますもの」
「承知しました。……雷牙、猿轡もしっかりと。これ以上不快な言葉でエカテリーナ様の耳を汚させてはいけません」
「ああ、任せろ」
「や、やめろ! 貴様ら、何を……むぐっ!?」
エドワードは倉庫の太い柱に縛り付けられ、声も奪われた。
背後では、司祭ジョセフが塵一つ残さず「焼却」され、床には一筋の灰すら残っていない。エカテリーナは燃え盛る倉庫の出口へと歩き出し、振り返ることもなく言い放った。
「倉庫の汚物は処分しましたが、民の間に広がっている毒を早急に治療しなければいけませんが……そちらはリズを信じて待ちましょう」
エカテリーナは炎を背に、王都の頂点にそびえる王城を見据えた。
「さて……次は本丸、マリア。わたくしの王都にこびりついた最大の穢れを、根こそぎ祓って差し上げますわ」




