第3話:ベルン領の強欲大公と「黄金のライ麦パン」 裁け王家の魔法刻印!
村を救った翌朝。エカテリーナは、ハチがパンを頬張る横で優雅に紅茶を嗜んでいた。
だが、その視線の先には、昨夜雷牙が「偵察」して持ち帰った一通の書状がある。
「……ふん。わたくしの名を騙って重税を命じ、その裏でピンハネした金をどこかの軍資金に充てている……。このあたり一帯の領地を統治するバルト大公も完全に毒されていますわ」
「エカテリーナ様、そのバルト大公ですが、かなりの美食家を気取っているらしく、今日、村から奪った小麦で『自分専用の黄金パン』を焼かせ、盛大な午餐会を開くそうです!」
ハチが怒りに頬を膨らませながら報告する。
「自分専用? 職人でもない男が、小麦の声を無視して贅を尽くすなど、笑止千万ですわ。アン、リズ。わたくしたちもその『午餐会』に招待していただきましょう。……予約は不要ですわね?」
「はい、姫様。今回のドレスコードは『動きやすい服装』ということで」
アンが無表情で答え、一同は大公の屋敷へと向かった。
バルト大公の館の食堂では、豪華な装飾に囲まれた太った男が、焼き上がったばかりのパンを前に鼻を鳴らしていた。
「ふはは! これこそがエカテリーナ姫のご意向! 民から搾り取った最高級の小麦で焼いた、私だけの黄金だ! さあ、食らってくれるわ!」
彼がパンを口に運ぼうとした瞬間、食堂の重厚な扉が「粉々に」砕け散った。
「――お止まりなさい。その醜悪な口を黄金に触れさせるなど、このわたくしが許しませんわ」
舞い散る木屑の中に現れたのは、逆光を背負ったエカテリーナ。
「エ、エカテリーナ姫!? なぜここに……! 衛兵! 衛兵は何をしている!」
「あなたの衛兵なら、今頃中庭でリズの魔法による『強制お昼寝タイム』を楽しんでいますわ」
リズが扉の影からひょっこりと顔を出し、楽しそうに笑う。
エカテリーナは、怯えるバルト大公を無視してテーブルへと歩み寄り、焼かれたパンを扇子の先で突いた。
「……まあ。なんという惨い姿。最高級の小麦を使いながら、焼き手への敬意も、食べる者への感謝もない。これはパンではありませんわ。あなたの強欲を固めて焼いた、ただのゴミですわね」
「な、何を! これは姫様、あなたのために集めた金で作ったもので……!」
「わたくしが、こんな下品な味を好むとお思い? 身の程を知りなさい!」
エカテリーナの凛とした声が響く。彼女は懐から、眩い光を放つ王家の魔法刻印が刻まれた印章を取り出し、テーブルに叩きつけた。
「ひ、ひぃっ! それは……本物の王室全権の証!? まさか、追放されたというのは……」
「ええ。追放ついでに、わたくしの名を汚すネズミ共を駆除して回っているだけですわ。アン、この不潔な男を地下牢へ。ついでに、税に関する記録をすべて押さえなさい」
「承知いたしました」
アンの剣が光り、バルト大公の豪華な衣装が細切れになって床に落ちる。雷牙がその首根っこを掴み、「おい、豪華なメシはこれでおしまいだぜ、大公様よぉ」とニヤリと笑った。
事件後。
税の流れを調査した結果、徴収した額の大半が実在しない貴族『ロキ家』とその領地『アルカディア』へと送られていた。
それに関与した者たちの記憶は不自然なまでに曖昧となっており、エカテリーナはリズにそういった他人の記憶をいじる魔法がないか調査を命じておいた。
大公の私有地から解放された大量の小麦が村へと返された。
エカテリーナは、再びあの老婆が焼いた「本当の黄金パン」を次の目的地への出発前に受け取った。
「……ふん。昨日のよりは、マシな焼き加減ですわね」
エカテリーナは一口食べると、空を見上げた。いつもより青く、美しく感じた。
「ハチ。次はどこへ向かいますの? わたくしの肌が乾燥する前に、早く案内なさい」
「次は港町サザーンです、お嬢様! 潮風に当たって、美味しい魚を食べましょう!」
馬車はベルン領を後にする。エカテリーナの胸には、次なる「本物の美」と「美味」への期待が、高飛車な誇りと共に輝いていた。




