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第25話:泥人形の矜持

押し寄せる有力者たちの対応を「明日、改めて公式な場で発表しますわ」と強引に打ち切り、ミラは自室に逃げ込んだ。扉を閉めた瞬間、彼女の肩が激しく震え始める。


「……どうすんのよ、これ。ただの詐欺のつもりが、街中の期待を背負っちゃったじゃない……」


取り巻きの男たちが、苛立ちを隠さずミラに詰め寄る。

「おい姐さん、何ビビってんだ。こうなったら領主から適当に金を巻き上げて、ずらかればいいんだよ。あのガキ共の孤児院なんて、知ったこっちゃねえ」


男がミラの肩を乱暴に掴んだその時、認識阻害で姿を消していたシオンの指先が、わずかに動いた。だが、エカテリーナが扇子でそれを制する。


ミラは男の手を振り払い、懐から一包みの布を取り出した。それは、先ほどトーマスが置いていった数枚の銅貨だった。


「……あいつ、言ってたわ。『この子たちは、未来そのものなんです』って。反吐が出るほど馬鹿正直な目をしてさ」


ミラの脳裏に、遠い記憶が蘇る。親を失い、泥水を啜り、男たちの欲望や暴力に怯えながら路地裏を這いずり回っていた、かつての自分。誰も助けてくれなかった。誰も、自分を「未来」だなんて呼んでくれなかった。


「……あのまま逃げたら、あの子たちは昔の私と同じになる。売り飛ばされて、すり潰されるだけよ」


ミラは鏡に向かい、しばらく自身を見つめ、決断した。

彼女は震える手で薄化粧を直し、鋭い眼差しを作った。


「決めたわ。領主を騙して、全財産……は無理だけど一部を奪ったら昔の私の為に使う。……これまでの人生で一番、派手な大博打を打ってやるわよ」


取り巻きの男たちは「狂ったか!」「死にてえのか!」と罵倒したが、ミラは一切怯まなかった。その横顔には、詐欺師としての計算ではない、一人の女性としての「意志」が宿っていた。


その様子を見守っていたシオンは、息を呑んだ。

(……紛い物だと思っていた。だが、あの女は今、己を蝕む恐怖を押し殺し、自分より弱い者を守ろうとしている。男たちの罵声に屈せず、一歩も引かずに……)


シオンの中で、男たちの「利己的な保身」と、ミラの「献身的な覚悟」が鮮明なコントラストを描き出す。男性への不信が深まる一方で、泥を被りながらも立ち上がる女性の姿に、彼女の心は強く揺さぶられていた。


「シオン。面白いものが見られそうですわね」


エカテリーナの囁きが、静かに部屋に響く。

「ただの泥人形だと思っていましたが……どうやら、その内側に一欠片の宝石が混じっていたようですわ。磨き上げる価値があるかどうか、最後まで見極めさせていただきましょう」


夜が明け、ミラは領主の館へと向かう。

それは、偽物の王女が「本物の矜持」を胸に挑む、危険な審判への第一歩だった。

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