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第15話:鉱山都市の黒い煙

レイク・ミラージュを後にした一行がたどり着いたのは、王国最大のエネルギー源を支える鉱山都市『グラファイト』。

しかし、そこはかつての活気を失い、空は厚い黒煙に覆われ、街行く人々の顔は煤と絶望で薄汚れていた。


「おかしいですね。ここはもっと鉱夫たちで賑わってこの辺り一帯の名物が広場の屋台で楽しめる素晴らしい街のはずなんですけど」

ハチが首を傾げながら実像と違った観光案内をする。


「……何かしら、この空気の不潔さは。わたくしの吸うべき酸素が、石炭の粉塵で汚染されていますわ。アン、予備のシルクのハンカチを出しなさい」


エカテリーナは顔をしかめて扇子を広げた。

そこへ、数人の私兵を引き連れた監督官が、一人の炭鉱夫を泥の中に組み伏せ、軍靴で踏みにじっている光景が飛び込んできた。


「こんなに高い税金、払えるわけねえだー! 頼む、娘だけは……!」

「うるせえ! 払えねえならそのガキを売るだけだ。それがマリア聖女様の救済増産計画だ、なあ?」


監督官が下卑た笑いと共に炭鉱夫の顔面を蹴り上げた瞬間、エカテリーナの冷徹な声が響いた。


「救済? 略奪と暴行をそのように呼び替えるとは、わたくしの耳まで不潔になりそうですわね」


監督官が振り返り、エカテリーナの漆黒のドレスを舐めるように見た。

「あぁん? なんだ小娘! 貴様も一緒に売り飛ばしてやろうかぁ?」


「……わたくしを売り飛ばす? 下郎が! その汚れた口で吐き捨てた不敬を後悔させてやりますわ!」


エカテリーナが合図を送るより早く、雷牙が動いた。

一閃、私兵たちの武器は瞬時に叩き折られ、地面に転がる。

シオンが監督官の喉元に冷たい指先を添え、逃げ場を奪う。


「リズ、掃除の邪魔ですわ。この不快な取り巻きたちを実験材料にすることを許可しますわ」


「いいんですか! よし、皆さんまとめて土に還っちゃえー! 『重圧・地盤沈下テラ・プレス』!」


リズが杖を地面に突き立てると、私兵たちの足元の泥が生き物のようにうねり、一瞬にして彼らを飲み込んだ。

次の瞬間、泥はコンクリートのように硬化し、私兵たちは首から下を地面に埋められた状態で身動きが取れなくなった。


「な、何だこれは!? 抜けない、体が……!」


「生き物を効率よく自然に還す実験ですー。体が地面に消化されていきます。痛みは感じないで頭は幸福感に支配されますから苦しまず逝けますよー」


リズはどこから取り出したのか、楽しそうに私兵たちの顔を見ては手帳に何かを書き込んでいる。その光景を見ていたアンが少し引いている。


「雷牙、その偉そうな男の不潔な口を黙らせなさい。……あまりにこの男の行いが美しくないので、わたくし、少しだけ苛ついていますの」


「へっ、お安い御用だ、お頭」


雷牙が容赦のない拳を監督官の腹部に叩き込んだ。

男がくの字に折れ曲がると、今度はその顔面をシオンが冷徹に蹴り飛ばす。

監督官は完膚なきまでにボコボコにされ続けた。


「ひ、ひいぃ……っ! 助けてくれ、誰か……!」


泥にまみれ、鼻から血を流して這いずる監督官。

その汚れた指先が、エカテリーナの靴に触れようとした瞬間、彼女は扇子で男の顎を冷酷に跳ね上げた。


「汚い指でわたくしに触れないで。……マリアの名を出せば、自分の魂の汚れが隠せるとでも? 罪なき者を使い潰し、子供を売り飛ばして肥え太る。その浅ましい精神こはまるで、この街を覆う黒煙の正体ですわ」


エカテリーナは煤で汚れたハンカチを男の顔に投げ捨てた。

痛めつけられていた男はリズの魔法できれいに回復させると、娘は涙を止め笑顔になった


「きれいなお姉さん、助けてくれてありがとう」


「どういたしましてー」


「あら、その歳できちんとお礼が言えるなんて偉いですわね。褒めて差し上げますわ。ところでこの街の淀んだ空気について説明してくださらない?」


「危ないところを助けてくれてありがとうございますだ。見ての通り街の元気がねえのはこの辺りの領主様が最近変わって、救済だなんだと皆が払えないくらい税金をあげちまったせいで、皆持ってるもの全部売っぱらっちまって、家族とつるはししか持ってねえありさまだ。それでも払えねえやつの家族はどこかに連れてかれちまっただ」


「話はわかりました。リズ、この街の煙突をすべて止めなさい。一度空の洗浄が必要ですわ。アン、この街の財政を分析なさい。……この親子から奪おうとした未来、その不潔な利権ごと根こそぎ消し去って差し上げますわよ!」


「はーい! 全部お掃除しちゃいますね!」

「承知しました。不透明な金の流れ、一滴残らず洗い出します」


黒煙に閉ざされた都市に、エカテリーナの号令が響き渡る。

泥にまみれた鉱山都市が、真の輝きを取り戻すための「大掃除」が幕を開けた。

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