表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/22

第13話:鏡湖の晩餐 ~名店にて~

第12話:鏡湖の美しき晩餐。名店にて

ルミナス王国有数の避暑地、レイク・ミラージュ。鏡のような湖畔に佇む高級レストラン『水の旋律』では、お忍びの王族が急に来店して泡を食っていた。


「わーい! エカテリーナ様、ここの椅子、ふかふかでまるでシフォンケーキみたいですね!」

ハチが元気よく席につき、ナプキンをよだれかけのように首に巻こうとする。その隣で、アン、リズ、雷牙、そして新入りのシオンも、エカテリーナの意に従い着席した。


「……背後を壁に預けられない。この無防備な状況で食事をするのは抵抗があります」

カトラリーの並びを前に、シオンが彫像のように固まっている。それを見た雷牙が、慣れた手つきで自分のナプキンを広げながら、シオンの肩を軽く叩いた。

「おいシオン、そんな肩を怒らせるなよ。まずはそのガチガチの姿勢をクレンジングしろ。可愛い後輩への頼りになる先輩からのアドバイスだ」


「……馴れ馴れしく触るな。なぜおまえはそんなに軽薄でおしゃべりなのだ。本当に忍者か?」

シオンは冷たく手を払いのけたが、その瞳には雷牙のいつもの軽薄な態度に嫌悪感が宿っていた。


それを察したように、隣に座るアンが、シオンの手にそっと自分の手を重ねた。

「シオン、あなたは生真面目なのですね。少し私に似ています。確かに雷牙は態度こそふざけていてたまに殴りたくなりますが、仕事の腕は確かです。感情に振り回されず、客観的に一人一人を見てください。まずはあなたの歩幅で、この優雅な時間を味わいなさい。心の余裕こそが、次の良き仕事に繋がるのですから」


「……アン様。……はい。肝に銘じます。雷牙、言葉が過ぎた。ごめんなさい」

アンの慈愛に満ちた言葉に、シオンの強張っていた表情がわずかに和らぐ。


雷牙の顔はアンの言葉で引き攣っていたが、シオンの言葉でその目は一瞬やさしくなり、次の瞬間からまたふざけた顔に戻った。

「いいってことよ。ま、今日はうまいもの腹いっぱい食って楽しもうや」


「おーい、みんな話ばっかりしてないで早く食べよー! ここのポタージュ、魔力の配合が絶妙で、飲むと頭がピカピカになるよー!」

リズがいつもの調子でスープを頬張り、口元を白くしている。エカテリーナはそれを見て、スプーンを置いてハンカチを手に取った。


「リズ。下品ですわよ。ほら、口を吹いてあげるからこっちを向きなさい。……ハチ、あなたもスープを『飲む』のではなく『味わう』のです。わたくしの隣に座るなら、最低限の気品を身につけなさい。それから雷牙、あなたもですわ。その野性味溢れるナイフ捌き、見ていて落ち着きませんわよ」


「へいへい。お嬢様のお好みに合うよう、精一杯エレガントにやらせてもらいますよ」

雷牙が皮肉っぽく笑いながらも、完璧なマナーで肉を切り分け、シオンに「ほら、食え」と皿を回す。


「……ありがとうございます。ですが、毒味もせずに……」

「シオン。わたくしの舌が、不純物を見逃すとでも? 安心して口になさい」


エカテリーナが優雅にポタージュを喉に流し込み、満足げに目を細めた。その姿を見て、シオンもゆっくりスプーンを口に運ぶ。


「…………美味しい、です。こんなに温かくて、穏やかな味は……初めてです」

「ふん、当たり前ですわ。わたくしが選んだ店ですもの。……さあ、あなたたち。今宵は巡検の話は抜きですわ。この鏡のような湖を眺めながら、わたくしに相応しい『美しい話』を聞かせて頂戴。素敵な料理はまだまだ続きますわよ」


エカテリーナのわがままで始まった、避暑地での晩餐。

鏡湖に映る月は、かつてそれぞれ孤独だった者たちが、エカテリーナという太陽を囲んで一つの「家族」のように笑い合う姿を、静かに映し出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ