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EP 7

「極悪執事と守銭奴猫の裏稼業」

「ひぃぃぃっ! 馬車を出せ! 急いでルナミス帝国へ戻るんだ!」

涙と鼻水で顔をグシャグシャにした徴税官が、馬車に飛び乗って逃げていく。

その無様な後ろ姿を、リバロンは完璧な姿勢のまま、静かに見送っていた。

「……相変わらず、えげつないことしはりますなぁ、リバロンはん」

庭の生垣から、煙管きせるの煙と共に猫耳の商人、ニャングルが姿を現した。

片手には、彼が命よりも大切にしている黄金の算盤そろばんが握られている。

「なんのことでしょう、ニャングル殿。私はキャルル様と、この村の平和をお守りするただの執事ですよ」

「白々しいわ。あんたがさっきサインさせたあの書類、特区申請の裏面に、ゴルド商会への『超高金利・多重債務契約書』が透かしで入っとったやないですか。あいつ、一生ウチの商会の奴隷でっせ」

ニャングルがニヤァッと意地悪な笑みを浮かべる。

「ルナミス帝国の末端の役人を借金漬けにして、帝国の内部情報を引き出す。……計算通りちゃいますの?」

「買い被りです。私はただ……」

リバロンが、指先に挟んでいた一枚の名刺を手首のスナップだけで軽く投げ放った。

――ヒュンッ!

時速300キロを超える速度で飛来した『名刺刃』が、ニャングルの頭上の木の枝を、鋼鉄の剣のようにスッパリと切断した。

「……私の主であるキャルル様の安眠を妨げる『害虫』を、駆除したまでです」

「ひぃっ!? あ、相変わらず洒落にならん殺気やで、ホンマ……」

最強の武力を持つキャルルが表の顔なら、この二人はポポロ村の裏を牛耳る『極悪フィクサー』だった。

彼らが暗躍する限り、大国だろうが何だろうが、この村に手出しすることは不可能に近い。

 ◇ ◇ ◇

「いやぁ、リバロンさんって有能な執事なんだな。ちょっとお茶を出しただけで、あんな厄介な役人を追い返しちゃうなんて」

リビングのソファに座りながら、俺は感心して頷いた。

「ふん。奴は少々口うるさいが、実務能力だけは認めてやっている」

キャルルが、ポテトチップスをかじりながら偉そうに言う。

「あの紅茶、きっとすっごく美味しかったんですよぉ! 私もダーリンの淹れたお茶、大好きです!」

リーザがテレビのアイドル番組を見ながら無邪気に笑う。

平和だ。

裏でどんなエグいマネーゲームと脅迫が行われているかなど露知らず、俺たちは冷房の効いた快適なリビングで、完全にダメ人間と化していた。

「加藤の兄貴ィ! 裏山の木、全部切り倒して薪にしてきやしたぜぇ!」

庭から、泥だらけになったイグニス(竜人)が誇らしげにサムズアップしている。いや、裏山ハゲ山にしてどうすんだよ。

その時だった。

『ピンポーン』

再び、マイホームのインターホンが鳴った。

佐須賀でも戻ってきたのかと思い、俺は不用心に玄関のドア(まだ壊れかけ)を開けた。

「あ、あの……ごめんなさい……」

そこに立っていたのは、透き通るような白い肌と、長く尖った耳を持つ絶世の美女だった。

淡い緑色のドレスに身を包み、金糸のような長い髪が風に揺れている。

まさにファンタジーの王道『エルフ』そのものだ。

「えっと……ここは、世界樹の森の、第4区画でしょうか……? 私、少し散歩に出たはずが、なんだか景色が違って……」

エルフの美女は、涙目でオロオロと周囲を見回している。

「おい、嘘だろ……」

リビングから覗き込んだキャルルが、持っていたポテトチップスを取り落とした。

「なぜ、エルフの次期女王候補にして『世界樹の巫女』と呼ばれるルナ・シンフォニアが、こんな辺境のポポロ村にいる!?」

「えっ……? ここ、ポポロ村なんですかぁ……?」

ルナ・シンフォニアと呼ばれたエルフの姫は、きょとんとした顔で首を傾げた。

どうやら彼女、国家を揺るがすレベルの『超・方向音痴』らしい。

「あああぁぁぁ! もう歩けませんぅ! 喉が渇きましたぁ!」

そして、ルナ姫はそのまま俺の家の玄関にへたり込んでしまった。

またしても厄介な(そして高貴な)居候が、我が家の敷居を跨ごうとしていた。

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