EP 11
「情報商材とデマの拡散」
「……腹が……減った……」
「喉が……渇いた……デス……」
配達員(アイドルと中二病+時間を操る始祖竜)による無期限ストライキ突入から半日が経過した。
ポポロ村郊外の荒野には、兵站を絶たれ、弾薬も食料も尽きかけた両軍の兵士たちが、干からびたゾンビのように塹壕に転がっていた。
「もはや戦線の維持は不可能だ。……この地獄を終わらせるには、敵の『旗』を見つけ出し、速やかに奪取するしかない」
ルナミス軍の塹壕で、鮫島が乾いた唇を舐めながら呟く。
だが、その肝心の『旗』の場所が分からない。ルール上の「1日1回のGPS通知」は、敵の課金(GPS偽装)によって完全に撹乱されており、広大な荒野と森林のどこに隠されているのか見当もつかなかった。
獣人軍のハガルもまた、同じ絶望を味わっていた。
「くそっ……! 闇雲に捜索隊を出せば、体力を消耗するだけだ。何か、確実な情報があれば……」
『ほっほー。お困りのようでっせ、両軍の指揮官はん!』
その時、絶望の荒野に、またしてもあの憎きファンファーレが響き渡った。
装甲車の上で、黄金の算盤をジャラジャラと鳴らす猫耳の極悪商人――ニャングルだ。
「物資の補給が止まって、往生してはりますなぁ。せやからワイ、今日は皆はんに『特大のチャンス』を持ってきたんでっせ!」
ニャングルが電光掲示板のスイッチを押す。
そこに表示されたのは、目を疑うようなテキストだった。
【極秘裏情報:敵陣営の『旗』の確証レベル現在地(写真付き)】
【価格:金貨五千枚(5000万円)※ローン可】
「……なんだと!?」
鮫島とハガルが、同時に塹壕から身を乗り出した。
「ワイらゴルド商会の情報網は、大陸一でっせ。ポポロ村の裏ルートを使って、両陣営がどこに旗を隠したか、バッチリ裏取り済や。……どうでっか? これさえ買えば、無駄な捜索は一切不要。一直線で勝利に直行できまっせ!」
悪魔の囁き。いわゆる『必勝の情報商材』である。
「金貨五千枚……! 足元を見やがって!」
「だが、これを逃せば我々は飢え死にする……ッ!」
両軍の指揮官の心の中で、激しい葛藤が渦巻く。
しかし、極限状態における人間の判断力など、たかが知れている。
「……ニコラス! 本部に緊急融資を要請しろ! 買うぞ!」
「副官! 王国の予算を前借りだ! その情報を寄越せッ!」
両陣営から、ニャングルの装甲車に向けて、光の矢のように『金貨五千枚の決済承認データ(電子署名)』が飛んだ。
チャリン、チャリン! と、ゴルド商会の口座に莫大な利益が吸い込まれる。
「まいどありーっ!! ほな、購入者限定で、敵の旗の正確な座標と『隠し場所の写真』をスマホに送信させてもらいまっせ!」
ピロリン♪
鮫島とハガルの魔導スマホに、それぞれニャングルからのメッセージが届く。
「よし! これでこの地獄ともおさらばだ! 敵の旗の場所は――」
二人は血走った目で画面を覗き込み。
そして、そこに添付されていた写真を見て、完全に固まった。
「……おい。なんだこれは」
鮫島が、震える声で呟く。
写真に写っていたのは、見覚えのある木造建築……『加藤のマイホーム』の一室だった。
散らかった畳の部屋。その中央に鎮座する、みかんの乗った『コタツ』。
そして、そのコタツの中から、獣人軍の『旗の端っこ』がチラリと見えている。
ハガルのスマホに送られてきた写真も、全く同じ構図(ルナミス軍の旗バージョン)だった。
【情報詳細:敵の旗は、中立地帯(ポポロ村)にある『女神ルチアナのコタツの中』に隠されています。彼女が寝落ちしている今が奪取のチャンス!】
「「……は?」」
あり得ない。
両軍とも、自分たちの旗をそんな場所に隠した覚えなど一切ないのだ。
「オーウ……ユーゴ。これ、完全に『デマ(フェイク・ニュース)』デスよね? ニャングルの野郎、適当な写真を合成して、高額な情報商材を売りつけやがりマシタよ……」
ニコラスが、スマホの画面を見て脱力する。
しかし。
飢えと疲労、そして「金貨五千枚という大金を払ってしまった」という『サンクコストの呪縛』が、指揮官たちの理性を狂わせていた。
「……いや。あり得る」
鮫島が、ギラギラとした目でコタツの写真を睨みつける。
「相手の陣地に隠せば奪い返される。ならば、手が出せない『中立地帯の神の寝床』に隠すのが、最も安全な戦術だ! 獣人の黒豹め、狡猾な真似を……!」
「……ルナミス軍め。我々の裏をかいて、ルチアナ様のコタツに旗を隠すとは。ええい、罠であろうと行くしかない! 突撃だァァッ!」
ハガルもまた、完全にデマを真実だと思い込んでいた。
「よし! 全軍に告ぐ! 目標はポポロ村、加藤の家の隣室『女神のコタツ』! 隠密裏に潜入し、旗を奪取しろ!!」
資本主義の悪魔がバラ撒いた、たった一つの悪質な情報商材。
それが、干からびた両軍の残存兵力を、再びあの『最悪のマイホーム』へと誘導してしまう。
この戦争の真の敵が誰なのか。
それに気づくための【第二回・首脳会議】が開かれるまで、あとわずかであった。




