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EP 12

「第二回・首脳会議(血の署名と共闘)」

深夜のポポロ村。加藤のマイホーム。

その一室――女神ルチアナが引きこもっている和室のふすまが、音もなくスゥッと開けられた。

暗闇の中、忍び足で近づく二つの黒い影。

一人は、暗視ゴーグルを装着し、サプレッサー付きの拳銃を構えた鮫島。

もう一人は、肉球で足音を完全に殺し、魔導双剣を逆手に持ったハガル。

二人は、部屋の中央に鎮座する『コタツ』に狙いを定め、同時に毛布をガバッとめくり上げた!

「フリーズ! 動くなッ!!」

「そこまでだ! 貴様らの旗は貰いうけ――」

二人の声が、ピタリと重なる。

暗闇の中、彼らの目に飛び込んできたのは、敵陣営の旗などではなかった。

芋ジャージ姿で腹を出して大イビキをかき、朝倉月人の限定抱き枕にヨダレを垂らしながら爆睡している駄女神ルチアナの姿だけである。

「「……あ?」」

鮫島とハガルは、コタツを挟んでお互いの顔を見合わせた。

「貴様……なぜここにいる、黒豹!」

「それはこっちのセリフだルナミスの犬! 情報によれば、我が軍の旗はこのコタツの中に――」

「違う! ここに隠されているのは我が軍の旗だ!」

互いに銃口と剣先を突きつけ合い、緊発した空気が流れる。

その時だった。

カチッ。

部屋の蛍光灯が、無慈悲に点灯した。

「……お前ら。夜中の三時に、独身女性(一応、神)の部屋で何やってんの?」

入り口に立っていたのは、寝癖をつけ、あくびを噛み殺している加藤だった。

その手には、しっかりと『王帝』が握られている。

「ヒィッ!?」

「ち、違う! これは決して夜這いなどではなく、軍事的な潜入作戦ステルス・ミッションで――」

「深夜の無断立ち入り料金、一人につき金貨三百枚(300万円)な。リビングに来い」

有無を言わさぬマイホーム絶対神の命令により、二人は再びあの『リビングのテーブル』へと強制連行された。

 ◇ ◇ ◇

「……見ろ。これがニャングルから買った『確証レベルの情報インテリジェンス』だ」

「……我が軍に送られてきたものと、完全に一致しているな」

リビングのローテーブル。

鮫島とハガルは、互いの魔導スマホを並べていた。

表示されているのは、ルチアナのコタツにそれぞれの旗が合成された、雑なコラージュ写真である。

「オーウ……。見事なまでの『情報商材詐欺スキャム』デス」

護衛のニコラスが、死んだ魚のような目で呟いた。

鮫島は、ギリッと奥歯を噛み締めた。

「……計算してみろ。俺たちはこの二日間で、どれだけの『資金リソース』を消費した?」

「弾薬代、二郎系の缶詰、医療費……」

ハガルが、虚ろな声で指を折って数える。

「さらに、GPSの偽装オプション、配達員ウーバーへの危険手当とスパチャ、住民投票のペナルティ罰金……。極めつけに、この詐欺画像に金貨五千枚だ」

「両軍合わせて四万枚(約4億円)あった軍資金は……今や、スッカラカンだ。俺たちを飢えさせ、いがみ合わせている間に……誰が一番儲けた?」

鮫島とハガルの視線が、ゆっくりと交差した。

ルナミス帝国のためでも、レオンハート王国のためでもない。

世界樹の霊水など、もうどうでもよかった。

彼らの敵は、目の前にいる兵士ではないのだ。

「……戦争ビジネスの胴元、ポポロ商会ニャングルだ」

鮫島の言葉に、ハガルの全身から凄まじい闘気が立ち上った。

「我々は、あの猫耳の商人と、悪辣な配達員たちに、骨の髄までしゃぶり尽くされていたというわけか……! 誇り高き戦士を、日雇い労働者や養分カモとして扱いおって……!」

鮫島が、タクティカルベストからサバイバルナイフを抜き、自分の親指の腹をスッと切った。

血が滲む。

「……ハガル団長。戦術マニュアル第4条。『共通の絶対的脅威が現れた場合、昨日の敵は今日のタクティカル・アライアンスとなり得る』」

「……獣人の群れのジャングル・ブックにもある。巨象を倒すには、狼と豹が手を組むべきだと」

ハガルもまた、己の爪で親指を傷つけ、血を流した。

「血の盟約ブラッド・パクトだ。……我々はこれより、国家の枠組みを捨て、一つの『飢えた群れ(反乱軍)』となる」

「目標は、ポポロ村の物資集積所! ニャングルの全財産と、特上串焼き、そして二郎系の缶詰を強奪するッ!!」

二人は、血の滲んだ親指を力強く押し当て合った。

かつてないほど強固な、ルナミスとレオンハートの『共同戦線』が誕生した瞬間である。

「おおぉぉぉっ!!」

「やってやる! 資本主義システムを破壊しろォォッ!」

二人の熱き決意と咆哮が、深夜のリビングに響き渡る。

「……おい。お前ら」

熱い展開に水を差すように、麦茶の入ったピッチャーを持った加藤が、冷ややかな声で口を挟んだ。

「テーブルに血ぃつけんな。拭くの手間だろ。それと、深夜の会議室利用料と麦茶代、きっちり請求するからな」

「うるさァァァいッ!! お前のそういう『小銭を毟り取る姿勢』にもキレてんだよ俺たちはァァァッ!!」

完全にヤケクソになった両軍のトップは、もはや国家間の威信など完全に忘れ去り、ただの「暴徒」と化してマイホームを飛び出していった。

ポポロ村郊外に集結した、極限の空腹と怒りを抱える200名の精鋭たち。

彼らが向かう先は、最強の『一般市民』たちが待ち構える、地獄の農村地帯である。

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