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EP 7

「配給格差と『豚神屋』の誘惑」

「……噛め。噛み砕け。これをストーンだと思うな。勝利へのいしずえだと思え」

レオンハート獣人軍の塹壕。

黒豹耳族の団長ハガルは、自らに言い聞かせるように、手に持った【MRE型戦闘糧食(通称:茶色い絶望)】の『石のクラッカー』をガリガリと齧っていた。

「だ、団長……。味が、味がしません……。泥を食ってるみたいです……」

「贅沢を言うな! 我々の残金では、ニャングルの店で一番安いこの『MRE型』しか買えなかったのだ!」

ハガルが血涙を流しながら一喝する。

本来、獣人軍の支給糧食は、極上の肉と酒がセットになった『Modulo型(黄金の箱)』である。しかし、治療費とGPS偽装(※加藤のトイレ爆破事件の隠蔽工作含む)で資金が底をついた彼らは、金貨数枚で買える最底辺の泥パックをすするしかなかった。

その時だった。

「……ん? クンクン……」

聴覚と嗅覚に優れた犬耳族の兵士が、ふと鼻をヒクつかせた。

「だ、団長! 敵陣の方から……な、なんだか、凄まじく『暴力的な匂い』が風に乗って流れてきます……ッ!」

「匂いだと? 毒ガス(化学兵器)か! 全員、口と鼻を――」

ハガルが警告を発しようとしたが、遅かった。

風に乗って獣人たちの敏感な鼻腔を強襲したのは、致死量の毒などではない。

『醤油』と『大量の刻みニンニク』、そして『トロトロに煮込まれた豚の背脂アブラ』が混ざり合った、極限のカロリー爆弾の匂いだった。

「な、なんだこの匂いはァァッ!? 胃袋が……俺の胃袋の野生(本能)が、暴れ出しそうだッ!」

「ダメです団長! この匂いを嗅いだら、手元の泥(MRE)が……完全にウンコにしか見えませんッ!!」

獣人たちが、狂乱して自らの糧食を地面に投げ捨てる。

ハガル自身も、口の中に広がる凄まじい唾液の奔流を抑えきれず、膝から崩れ落ちた。

 ◇ ◇ ◇

匂いの発生源。ルナミス帝国軍の塹壕。

「プシューッ……!!」

魔導回路が組み込まれた分厚い金属缶の底を三回叩くと、凄まじい蒸気と共に、蓋がポンッと弾け飛んだ。

「オーウ……! ビューティフル! まさに戦場のオアシス(給水所)デス!」

「フッ。弾薬代コストを極限までケチった甲斐があったな。……食事チャージを開始するぞ」

鮫島とニコラスが、熱々の缶詰を前に、100均の先割れスプーンを構えていた。

彼らがニャングルから高額(金貨50枚)で買い叩いたのは、ルナミス軍が誇る最高峰のデブ活兵器――【戦闘糧食1型・献立A(通称:ポータブル・ジロウ)】である。

「食え! ニンニク飯と極厚チャーシューを、アブラ煮込みにディップして掻き込め! これは食事ではない、カロリーの制圧作戦タクティカル・イーティングだ!」

鮫島が、厚さ2cmの豚バラ肉を口に放り込み、目をひん剥いて咀嚼する。

「ウマイッ! 脳天を突き抜ける塩分と脂! SWATの激務明けに食った、ダウンタウンのジャンクフードを思い出すぜ!」

「ジーザス! 背脂アブラが舌の上でフラッシュバン(閃光弾)のように炸裂しマシタ! 闘気エネルギーが全身に満ち溢れてきマース!」

元SWATの二人は、周囲に半径50メートルの「ニンニク臭の結界」を張り巡らせながら、一心不乱に二郎系缶詰を貪り食っていた。

彼らは気づいていない。この行為が、結果的に敵軍に対する『最悪の精神攻撃サイコロジカル・オペレーション』になっていることに。

 ◇ ◇ ◇

「……ああっ、向こうの塹壕から、チャーシューを噛みちぎる音が聞こえるぅぅっ……」

数百メートル離れた獣人軍の塹壕。

並外れた聴覚を持つ猫耳族の兵士が、涙を流しながら耳を塞いでいた。

「もう限界だ……! 俺は突撃する! 撃たれてもいい、あの肉とアブラを奪い取ってやるゥゥッ!」

「やめろ早まるな! 治療費が払えなくて部隊が破産ゲームオーバーするぞ!」

パニックに陥り、同士討ち寸前になる獣人兵士たち。

ハガルは、己の爪が手のひらに食い込むほど拳を強く握りしめた。

獣人の鋭すぎる五感。

それが今、完全に裏目に出ている。ルナミスの放つ『豚神屋の匂い』は、彼らの誇り高き戦意を「空腹」という根源的な欲求で塗り潰してしまったのだ。

「……負けた」

ハガルは、ポツリと呟いた。

軍事的な敗北ではない。資本主義と、圧倒的な『カロリーの暴力』の前に、獣のプライドがへし折られたのだ。

「……団長?」

「副官……。白旗タオルを上げろ。……ルナミスの指揮官に、休戦協定パーレイを申し入れるんだ」

ハガルは、血を吐くような思いで決断を下した。

「会談の場所は、中立地帯……『加藤の家のリビング』だ。……もう、あのアブラの匂いを嗅ぎながら泥を食うのは、耐えられん……ッ」

世界樹の霊水を巡る誇り高き戦いは、ついに「空腹に耐えかねた獣人軍のギブアップ」という、あまりにも情けない理由で、第一回の首脳会議へと移行していくのだった。

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