EP 5
「戦場のウーバーイーツ(配達員・リーザと良樹)」
タァンッ!
タァンッ!
「右へ避けろ! 弾に当たるな、医療費(ポーション代)が飛ぶぞォッ!!」
「チィッ! 獣人どもめ、ゴキブリのように避けやがる! 弾薬の無駄だ、撃つな!」
ポポロ村郊外、荒野のド真ん中。
ルナミス帝国軍とレオンハート獣人軍による、世界樹の霊水を懸けた『代理戦争』は、文字通りの泥沼と化していた。
ルナミス軍は「一発千円の弾丸」を極限までケチるため、数分に一発しか撃たない。
対する獣人軍も「一回一万円の治療費」を恐れ、絶対に弾に当たらないよう、物陰から物陰へコソコソと移動するだけ。
両軍ともに、極度の『金欠』と『ストレス』で、士気は底をつきかけていた。
「ハァ……ハァ……。団長、腹が減って……もう走れません……」
「耐えろ! ここでニャングルのボッタクリ串焼きを買えば、昨日稼いだ日給がパーだ!」
獣人軍の塹壕で、ハガルと部下たちが泥水をすすって飢えを凌いでいた、その時だった。
――チリンチリ~ン♪
荒れ狂う(?)戦場のド真ん中に、場違いにもほどがある『自転車のベルの音』が響き渡った。
「……ん? 敵の新兵器か!?」
両軍の兵士が塹壕から顔を出すと、そこには信じられない光景が広がっていた。
「Darling(兵士)たちー! お待たせしましたぁ! 激戦区指定配達、『ウーバー・ポポロ』ですぅ!」
ピンク色の芋ジャージを着た人魚姫が、ママチャリ(前カゴに弾薬箱搭載)を立ち漕ぎしながら、戦場の中央を爆走してきたのだ。
さらにその後ろからは。
「我が『丼マスター』の理により! 汝らの飢えを癒やす聖なる糧(牛丼)を持参したでござる!」
コンビニのバイト制服を着た中二病の青年――佐須賀良樹が、謎のトカゲ(ジオ・リザードに偽装した始祖竜クロノ)が引く『移動式・牛丼屋台』に乗って現れた。
「な、なんだあいつら! 民間人だと!?」
銃撃戦のど真ん中に飛び込んできた命知らずな配達員に、両軍の兵士が度肝を抜かれる。
だが、リーザは銃口を向けられても全く動じることなく、ママチャリのブレーキをキーッと鳴らして止まった。
「はーい、ルナミス軍の鮫島部隊からご注文の、『魔導ライフル弾・特用パック』のお届けですぅ!」
「おおっ! 待っていたぞ!」
塹壕からニコラスが這い出し、リーザの元へ駆け寄る。
「ニャングルの店まで買いに行く『移動コスト』すら惜しかったからな。……で、いくらだ?」
「ええと、弾薬代が銀貨50枚。それに、配達手数料が銀貨5枚。さらにぃ〜……」
リーザが、もじもじと指を合わせながら、上目遣いでニコラスを見つめた。
「ここは『ドンパチしてる危ない場所』なのでぇ……アイドルの私に、特別危険手当をお願いしますぅ♡ これがないと、怖くて帰れませぇんっ!」
「オ、オーウ……! さすがプリンセス、商魂逞しいデス! ユーゴ、スパチャ(追加課金)の承認を!」
「……払え。背に腹は代えられん」
鮫島が血涙を流しながら承認し、ニコラスがチャリンチャリンと金貨をリーザのポシェット(お賽銭箱)に投げ入れる。
アイドルの笑顔(物理)で、部隊の軍資金がまたゴリッと削られた。
一方、その隣の牛丼屋台では。
「お、おい! その良い匂いはなんだ!」
ハガル率いる獣人軍の兵士たちが、屋台から漂う『醤油と牛肉とタマネギを甘辛く煮込んだ暴力的な匂い』に釣られ、塹壕からフラフラと吸い寄せられていた。
「フフフ……。これは『牛魔獣の特製丼(並盛)』! 一杯たったの金貨1枚(約1万円)でござる!」
良樹が、ドヤ顔でどんぶりを掲げる。
「き、金貨1枚だと!? ニャングルの串焼きと同じ値段じゃないか!」
ハガルが叫ぶが、兵士たちの口からは滝のようにヨダレが垂れている。
「ま、待たれよ! 拙者のスキルは良心的! なんと、オプションで『紅蓮の竜息吹(紅生姜)』と『大地の涙(生卵)』をつければ、さらに闘気がみなぎるでござるよ! セットで金貨2枚だ!」
「買いますゥゥッ!! 俺の昨日の日給(金貨1枚)、全部持っていってくれェェッ!! 俺はもう泥水は嫌だァァァッ!!」
獣人の戦士たちが、財布を握りしめながら屋台に殺到する。
「お、おい! 列に並ばぬか! 拙者、ワンオペでござるよ!? ロード、手伝うでござる!」
『……チッ。なぜ我が、低等生物に飯をよそうバイトなど……。ほれ、さっさと食え』
世界を滅ぼせる古代の始祖竜が、面倒くさそうに尻尾でどんぶりを配っている。
その異常性に気づく者は、飢えた戦場には誰一人いなかった。
「……おい。なんだこの戦場は」
数キロ離れたマイホームの縁側。
俺は、魔導双眼鏡でその様子を眺めながら、麦茶をすすっていた。
弾を撃ちたくても金がない。飯を食いたくてもボッタクリ。
そして、ちょっと補給を頼めば、アイドルと中二病バイトに『配達料とスパチャ』を毟り取られる。
「戦争って、こんなにセコくて、世知辛いもんだったっけ……?」
世界樹の霊水を巡る国家間の威信は完全に消え失せ、戦場はただの『超高額・野外サバイバル課金ゲーム』へと、その姿を決定的に変質させていた。




