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EP 2

「初期装備とボッタクリ商人」

ポポロ村の郊外に広がる、広大な荒野と森林の境界線。

照りつける太陽の下、乾いた風が吹き抜ける戦場に、異様な緊張感が漂っていた。

「……ボス。弾薬アモの支給はマガジン一個(30発)だけか? 冗談キツいぜ。これじゃあCQB(近接戦闘)のワン・エンゲージメントで弾切れだ」

ルナミス帝国軍陣営。

支給されたばかりの安っぽい標準仕様の魔導ライフルを点検しながら、鮫島が舌打ちをした。

その横では、ニコラスが標準仕様の9mm拳銃を弄りながらため息をついている。

「オーウ……ユーゴ。俺たちの愛銃(SCAR-HとベネリM4)は、ルール違反で持ち込み禁止オミットされマシタ。この初期アバターのような装備で、どうやって生き残れと……?」

彼ら元LAPD SWATの二人は、ルナミス軍の『客将』として高額な報酬で雇われ、この戦争に参戦していた。

理由はただ一つ。スマホのソシャゲで、新しい『アサルトライフル・水着スキン(虹色)』のガチャを回すためである。

「泣き言を言うな、客将殿。我らルナミス帝国百名の精鋭による一斉射撃があれば、獣人どもなど一瞬で蜂の巣だ!」

ルナミス軍の部隊長が、自信満々に胸を張る。

彼らの手元には、今回の『軍資金』として与えられた【金貨二万枚】が入った魔導カードが握られている。

一方、数百メートル離れた荒野の反対側。

レオンハート獣人王国の陣営では、百名の獣人戦士たちがギラギラと野生の目を光らせていた。

「ルナミスの惰弱な兵士どもめ。鉄の筒(銃)がなければ何もできん輩に、我ら獣人の闘気の恐ろしさを教えてやる……ッ!」

部隊を率いるのは、黒豹耳族の近衛騎士団長、ハガル。

彼らは初期装備のライフルなど見向きもせず、己の爪と牙、そして闘気を込めた大剣を抜き放ち、臨戦態勢に入っていた。

『アァー、マイクテス、マイクテス』

その時、戦場の上空に浮かぶ魔導飛行船から、のんびりとした声が響き渡った。

審判を務める、ポポロ村の執事リバロンだ。

『両陣営、配置についたようですね。……これより、ルナミス帝国とレオンハート王国による、世界樹の霊水を懸けた【ポポロ村・特別代理戦争】を開始いたします』

ゴクリ、と両軍の兵士たちが息を呑む。

『ルールは事前に通達した通り。互いの陣地にある「旗(50kg)」を奪い合い、自陣で24時間キープすること。追加の補給は一切なし。すべての物資は、支給された金貨二万枚から購入していただきます』

ハガルが低く唸る。

「行くぞ野郎どもッ! ルナミス陣地に電撃浸透チャージをかける! 突撃ィィィッ!!」

『ウォォォォォォォォォォッ!!』

獣人軍が、土煙を上げて一斉に疾走を開始した。

対するルナミス陣営の部隊長が、魔導ライフルを構えて怒号を飛ばす。

「敵兵接近! 撃てェェェッ!! フルオートで弾幕を張れ!!」

ダダダダダダダダッ!!

戦場に、けたたましい魔導ライフルの銃声が響き渡ろうとした、その瞬間だった。

『はいストーップ! ちょっと待ったー!!』

パパパパーン! と、間の抜けたファンファーレと共に、戦場の中央に『巨大な電光掲示板』を積んだ装甲車が乱入してきた。

装甲車の上で拡声器を握っていたのは、黄金の算盤を持った猫耳の商人――ニャングルだ。

「両陣営の皆はん、ご苦労さんでっせ! さて、撃ち合う前に、ワイから大事な『価格発表』がありまんねん!」

「価格発表だと……?」

撃ち合いを中断した兵士たちが、いぶかしげに掲示板を見上げる。

「さっきもリバロンはんが言うた通り、この戦場の物資はすべてワイらゴルド商会が『独占販売』させてもらいまっせ。……っちゅうわけで、現在お配りしてる魔導ライフルの『追加の弾丸』のお値段ですが……」

ニャングルがニヤリと笑い、電光掲示板のスイッチを押した。

ピロン♪

【魔導ライフル弾(5.56mm相当) 1発 = 銀貨1枚(約1,000円)】

「…………は?」

ルナミス軍の部隊長が、間抜けな声を漏らした。

「1発……銀貨1枚? バカな! 通常の市場価格なら、銅貨数枚で買えるはずだぞ!」

「ここは戦場、しかもワイの独占市場ブルーオーシャンでっせ。ボッタクリ? ちゃいますちゃいます、『需要と供給』っちゅう適正価格や」

ニャングルが算盤を弾く。

「ちなみに、あんさんらの魔導ライフルは、1秒間に約10発の弾を吐き出しまんねん。っちゅうことは……フルオートでトリガーを1秒引っぱなしにするだけで、銀貨10枚(1万円)が口座から消し飛ぶ計算になりまっせ!」

「「「なっ……!?」」」

ルナミス陣営に、悲鳴のような動揺が走った。

先ほどまで「フルオートで弾幕を張れ!」と息巻いていた部隊長の顔面が、一瞬で蒼白になる。

「さ、さっき俺……3秒くらい撃ったぞ……?」

「俺もだ……。すでに銀貨30枚(3万円)……俺の1ヶ月の小遣いが……!」

兵士たちの頭の中に、銃声ではなく『チャリン、チャリン』という、恐ろしい課金(引き落とし)の幻聴が響き始めた。

「オーウ、シット……」

ニコラスが、手元の拳銃を恐る恐る見つめる。

「ユーゴ、これは戦争じゃないデス。……運営ニャングルが悪質な『従量課金システム』を導入した、クソゲー(ペイ・トゥ・ウィン)デス!!」

「……クソッ。ライフより先に、資金リソースが尽きる戦場か」

鮫島は、額に冷や汗を浮かべながら、ライフルをスリングで背中に回し、素早くハンドシグナルを出した。

「全兵士に告ぐ! 本日この瞬間より、魔導ライフルのセレクターを『単発セミオート』に固定しろ! 無駄撃ちは一切許さん! 威嚇射撃は……その辺に落ちてる『石』を投げろッ!!」

「そ、そんな馬鹿なァァァッ!!」

誇り高きルナミス帝国の兵士たちが、弾を撃つ恐怖に怯え、地面の小石を拾い始める。

世界樹の霊水を懸けた威信をかけた戦いは、開始わずか数分にして、究極の『コスト削減(節約)サバイバル』へと変貌を遂げたのだった。

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