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EP 4

「極悪商人と家財差し押さえの危機」

チャラッ……。

静まり返ったマイホームのリビングに、冷ややかで、この世で最も金臭い音が響き渡った。

「ほっほー。なんや、朝から物騒な相談してはりますなぁ」

庭の掃き出し窓から、煙管きせるの煙と共に、ゴルド商会のニャングルが悠然と姿を現した。

手にはトレードマークの黄金の算盤そろばんと、何やら分厚い書類の束が握られている。

「にゃ、ニャングルさん……!」

リーザがビクッと肩を跳ねさせ、鮫島とニコラスが反射的に直立不動の姿勢をとった。

「まいど。可愛い居候さんたちの借金の『査定』、はじめましょか」

ニャングルはニヤァと三日月のように目を細め、書類の束をリビングのテーブルにドサリと置いた。

「昨夜のアバロン・ショックによるL-Pay為替の暴落……強制ロスカットに伴う追加証拠金、ならびに当商会からのレバレッジ融資の未払い分。……合わせて、金貨五千枚(約5000万円)になりまっせ」

「金貨、ごせぇんっ!?」

俺の目が飛び出そうになった。

「お、お前ら! どんだけ突っ込んだんだよ!」

「……ルチアナが地球から仕入れた『朝倉月人の限定抱き枕カバー』が、どうしても欲しくて……。金貨百枚でフルレバ(1000倍)を……」

リーザが消え入りそうな声で白状する。

「オーウ……ミーたちも、新作の『アサルトライフル・水着スキン(期間限定)』の天井まで回す軍資金を……」

ニコラスが涙声で続く。

「アホか! どんだけ欲望に忠実なんだよお前ら!」

俺の激しいツッコミを前に、三人はフローリングの床に綺麗に額を擦り付けた。

完全な『土下座』である。

「頼む、ボス! 金貨五千枚、立て替えてくれ! 給料から天引きでいい!」

鮫島が懇願するが、俺は冷酷に首を横に振った。

「ふざけんな。お前らの月給が金貨40枚だぞ? 天引きしたって完済までに何年かかると思ってんだ。自業自得だ、マグロ漁船にでも乗ってこい」

俺が冷たく突き放すと、ニャングルがパチン、と指を鳴らした。

「ほっほー、さすが加藤の兄さん、話が早いわ。本人らに支払い能力がないなら、身元引受人ボスである兄さんの資産から『差し押さえ』させてもらいまっせ」

「……は?」

ニャングルの背後から、屈強なドワーフの作業員たちがゾロゾロとリビングに足を踏み入れてきた。

彼らの手には、バールやドライバーなどの工具が握られている。

「おい、コラ。俺はこいつらの連帯保証人になった覚えはないぞ!」

「商会の特例法ローカル・ルールでっせ。借金取りの基本は『あるとこからむしる』。……おーい、作業員はん! とりあえずそのフカフカの『そふぁ』と、壁にくっついとる『えあこん』っちゅう魔導具、引っぺがしとくなはれ!」

「「ガッテンダァ!!」」

ドワーフたちが、泥だらけのブーツで俺の愛するリビングに上がり込み、俺が毎晩ビールを飲みながらくつろいでいる高級ソファを担ぎ上げようとする。

さらに一人が、壁の最新型エアコン(自動お掃除機能付き)にバールをねじ込もうと――。

「やめろォォォォォォォォォォッ!!」

俺の絶叫が、マイホームを揺るがした。

「それは俺が! 35年ローンのオプションで付けた! 最新型の!! エアコンだぞォォォッ!!」

俺は目にも留まらぬ速さ(合気道の歩法)でドワーフの背後に回り込み、その首根っこを掴んでポイッと庭へ放り投げた。

「痛ぇッ!? な、なんだこの人間、すげぇ力――」

「ソファも下ろせ! 俺の家に泥靴で上がるんじゃねぇ!!」

激怒する俺を見て、ニャングルはしてやったりという顔でニヤリと笑った。

「おや、兄さん。借金のカタを払えんっちゅうなら、ポポロ村の村長代理リバロンに言って、この家ごと競売にかけさせてもらいまっせ?」

この極悪猫耳野郎……!

最初から、俺の『マイホームへの執着』を利用して、借金の取り立て(あるいは労働力)を強制する腹積もりだったのだ。

「……分かったよ。払えばいいんだろ、払えば」

俺は奥歯をギリッと噛み締めた。

「マグロ漁船でもなんでもいい。その金貨五千枚、俺たちが稼いでくれば、ソファもエアコンも無事なんだな?」

俺の言葉に、土下座していた鮫島とニコラスがバッと顔を上げた。

「ボ、ボス! 俺たちのために……!」

「オーウ、ユーゴ! ボスは神デス! ファーザー・オブ・ザ・マイホーム・デス!!」

「勘違いすんな! 俺は俺のエアコンを守りたいだけだ!」

ニャングルは黄金の算盤をジャララッ! と景気良く鳴らし、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。

「商談成立でっせ! ちょうどええ出稼ぎの斡旋がありまんねん」

羊皮紙に書かれていたのは、『マグローザ漁船・乗組員大募集! 命知らずの勇者求む!』という荒々しい文字だった。

「北の海に住む超高級・魚魔獣『マグローザ』。こいつを一本釣りすれば、軽く金貨数千枚になりまっせ。兄さんらなら、数日で借金完済や!」

「……魚魔獣? 魔獣のマグロってことか?」

俺が胡乱な目を向けると、キャルルがソファ(無事)に座りながら人参をかじって補足した。

「マグローザは体長10メートルを超える化け物だ。漁船ごと沈められることもザラにある『海の死神』だぞ。……まぁ、頑張ってこい」

また命がけのミッションか。

だが、エアコンを剥がされる絶望に比べれば、マグロの一匹や二匹、どうということもない(感覚の麻痺)。

「行くぞお前ら! さっさと借金返して、俺の平穏なスローライフを取り戻すぞ!」

「「「イエッサー!!」」」

こうして、マイホームの家財道具を人質に取られた俺と、FXで破滅した借金まみれの居候たちは、荒れ狂う北の海へと出航することになったのだった。

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