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EP 7

「SWATの異世界マニュアル」

ガリッ。

鮫島の口の中で、コーヒーキャンディが噛み砕かれる甲高い音が響いた。

それが、現代の戦闘プロフェッショナルたちによる『駆除』開始の合図だった。

「ツー・マン・セル(二人一組)で前進する。ニコラス、右の死角ブラインドをカバー。……ボスの命令を忘れるな。芝生とトマトの苗には、指一本触れさせるなよ」

「コピー(了解)。オーウ、パーフェクトな害虫駆除をお見せシマース」

ウサギさんスリッパを脱ぎ捨て、コンバットブーツで庭の敷石を正確に踏みしめながら、二人の元SWAT隊員が前進する。

ギチギチギチッ……!

仲間を焼かれ、雷に打たれた死蟲機の群れが、怒狂ったように二人に襲いかかってきた。

鋼鉄の装甲を持つ『死甲虫型』が、戦車のような質量で突進してくる。

魔法陣の輝きもない。闘気のオーラもない。

ただ、冷徹な機械のように――ニコラスがベネリM4の銃口を向けた。

ダァァァンッ!!

夜の空気を切り裂く、12ゲージ・スラッグ弾(鉛の塊)の爆音。

魔法すら弾く神話時代の鋼鉄装甲が、一撃で紙クズのように陥没し、内部の機構がバラバラに吹き飛んだ。

「ターゲット・ダウン! 次ッ!」

ニコラスがポンプアクションをガシャリと鳴らし、排莢された空薬莢が敷石の上にチャリンと落ちる。

その隣で、鮫島がSCAR-Hを構えたまま、滑るように射線を移動させた。

タァン、タァン!

反動を極限まで制御された『ダブルタップ(二連射)』。

放たれた7.62ミリ弾は、空から襲い来る『死蟷螂型』の複眼センサーと関節の隙間を、ミリ単位の狂いもなく正確に撃ち抜いた。

「ピィィ……ッ!? エラー、姿勢制御、不能――」

詠唱時間ゼロ。魔力消費ゼロ。

彼らLAPD SWATの戦術マニュアルにおいて、異世界のモンスターなど『装甲が少し硬いだけのイレギュラーなホスタイル(敵対者)』に過ぎない。

「ニコラス、敵の密度が高い! 密集陣形スウォームだ!」

「イエッサー! ケミカル・ウェポン(化学兵器)、投下シマース!」

二人は同時にアサルトライフルとショットガンを背中に回し、腰のポーチから『アースジェット(プロ用特大サイズ)』を左右の手に二本ずつ引き抜いた。

「「制圧噴射サプレッシング・スプレー!!」」

プシュアァァァァァァァッ!!!

四本のノズルから、致死性の白い毒霧が扇状に噴射される。

ローズの甘い香りと、火薬の硝煙の匂いが混ざり合い、マイホームの庭先がカオスな空間へと変貌していく。

「ガガ……ッ、装甲、溶解! 回路、ショート……ッ!」

殺虫成分を浴びた死蟲機たちが、次々と脚を痙攣させ、ひっくり返って機能を停止していく。

剣も魔法も通じないはずの悪魔の軍勢が、ただの『虫ケラ』として処理されていく、圧倒的で理不尽な光景。

 ◇ ◇ ◇

「……な、なんだアレは……!?」

同時刻。

天魔窟の最深部で、ホログラム映像を通じてポポロ村の様子を監視していた死蟲軍・指揮官ギアンは、顔を覆う道化師の仮面ごと引きつらせていた。

パリンッ。

手の中で、傾けていた最高級の赤ワインのグラスが滑り落ち、砕け散る。

「ば、馬鹿な!? 我が王の軍勢が、たった数人の人間の前に、手も足も出ずに崩壊していく……!?」

炎の斧で数百が消し飛び、紫電の蹴りで空が落ちる。

そして極めつけは、あの黒ずくめの男たちだ。

見たこともない鉄の筒から放たれる轟音と、謎の『白い霧』。あれを浴びた死蟲機たちは、まるで神に命を奪われたかのように、あっけなく活動を停止していく。

「違う……! これは戦いではない! あいつら、我らが王の眷属を……神話の悪魔を……『ただの害虫』として駆除さぎょうしているというのかッ!?」

ギアンの肩が、ワナワナと震え始めた。

絶望に顔を歪めるのは人間のはずだった。恐怖に泣き叫ぶのは、あの村の住人であるはずだった。

それがどうだ。庭先の芝生を気遣いながら、流れ作業で一万の軍勢が溶かされていく。

『……おい。俺の弾薬(金貨)を無駄にさせるなよ。一匹残らず片付けろ』

『イエッサー、ボス!』

ホログラムから聞こえてくる、呑気な声。

それは、ギアンのプライドを粉々に打ち砕くには十分すぎた。

「おのれェェェッ! 許さん……許さんぞ、ポポロ村の人間どもォォッ!!」

ギアンは玉座から立ち上がると、身の丈を越える巨大な大鎌を鷲掴みにした。

「私が自ら赴く! 貴様らのそのふざけた余裕の顔を、真の絶望に染め上げてくれるわッ!!」

空間転移の魔法陣が、ギアンの足元に展開される。

怒りに我を忘れたシリアスな魔人が、ギャグ時空に支配された『加藤のマイホーム』へと、自ら足を踏み入れようとしていた。

それが、彼の人生において最も致命的なミス(フラグ)であることも知らずに。

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