EP 5
「雷神の兎と、火炎の竜」
ギギギギギギギッ……!!
夜の闇を切り裂くような、おぞましい金属音の擦れ合い。
俺のマイホームの庭先、わずか数十メートルの距離まで迫った森の木立から、鋼鉄の装甲を持った『死蟲機』たちが雪崩を打って姿を現した。
強酸の涎を垂らす蟻。
宙を舞い、猛毒の針をチラつかせる蜂。
かつて神話の時代に世界を恐怖に陥れたという絶望の軍勢が、赤い複眼をぎらつかせて俺の家を睨みつけている。
「うおおおおっ! 来やがったな害虫どもォ!」
真っ先に庭(※絶対に芝生を踏まないよう、石畳の上)に飛び出したのは、巨漢の竜人、イグニスだった。
「いいか貴様ら! 加藤の兄貴の庭を汚せば、オレ様の明日の『特大カツ丼』が没収されるんだよ! 飯の恨みは、竜の逆鱗より恐ろしいってことを教えてやるぜェェェッ!」
動機が果てしなくセコいが、その構えは間違いなく歴戦の戦士のそれだった。
「燃え盛れ、オレ様の魂ッ!!」
ゴォォォォォォォッ!!
イグニスが身の丈ほどもある両手斧を天に掲げると、闘気と紅蓮の炎が爆発的に巻き起こった。
熱波が庭を吹き抜け、俺は思わず顔を腕で覆う。
「消し炭になりやがれ! 必殺――『イグニス・ブレイク』ゥゥゥッ!!」
炎の竜巻を纏った巨大な斧が、大上段から振り下ろされた。
ズドォォォォォォォンッ!!
大地が揺れ、夜空が真昼のように赤く染まる。
斧から放たれた極大の火炎波が、森の入り口に殺到していた数百の死蟲機たちを、文字通り『一瞬で』飲み込んだ。
「ピィィィ……!? ガガッ、高熱、装甲溶解――」
鋼鉄の虫たちが、悲鳴を上げる間もなくドロドロに溶け、灰燼に帰していく。
伝説の悪魔の軍勢が、ただの『汚物消毒』感覚で処理されていた。
「ハッハァ! 見たか兄貴! 芝生には一切火の粉を落としてねぇぜ!」
「おう、偉いぞイグニス。明日のカツ丼は肉増しにしてやる!」
「よっしゃああああっ!」
喜ぶ竜人の横を、今度は一陣の疾風がすり抜けた。
月兎族の村長、キャルルだ。
「ふん。大味な攻撃だな、トカゲ頭。広域の害虫駆除なら、私の足技を見せてやろう」
今夜は、雲ひとつない快晴。
空には、煌々と輝く美しい満月が浮かんでいる。
月兎族の特性――『満月の夜、身体能力は限界を突破(マッハ1)する』。
「月に代わって、お掃除するぞ!」
キャルルが特注の強化靴に闘気を流し込んだ瞬間、靴に仕込まれた『雷竜石』がバチバチと紫電を放ち始めた。
――パァンッ!!
空気を蹴り破る、爆発音。
キャルルの姿が、フッと視界から消えた。
「えっ……どこいった!?」
俺が目を白黒させていると、空高く、月を背にする位置で紫色の雷光が瞬いた。
空中に跳躍したキャルルが、体を捻り、急降下蹴りの体勢に入っている。
「いくぞ! 乱れ流星脚ッ!!」
ドガガガガガガガガッ!!!
空中で軌道を変えながら放たれる、音速を超えた連続飛び蹴り。
彼女の蹴りが空気を叩くたびに、紫電の雷光が雨アラレのように地上へと降り注ぐ。
「ガガ……ッ、高圧電流、回路ショート、システム、ダウ――」
空中を覆い尽くそうとしていた『死蜂型』の群れが、一億ボルトの雷撃を浴びて次々と黒焦げになり、雨のようにボトボトと墜落していく。
その凄まじい光景に、マイホームの窓から見ていたリーザ(人魚姫)が、ペンライト(人参)を振り回して歓声を上げた。
「キャルルちゃんすごーい! まるで雷神様ですぅ!」
「ふふっ、これくらい準備運動にもならん。マモル! ちゃんと見ていたか! 私のご褒美(人参ジュース)も忘れるなよ!」
ドヤ顔で庭の敷石にフワリと着地するキャルル。
たった二人の攻撃で、すでに数千の死蟲機がジャンクパーツと化していた。
だが、敵は一万の軍勢。
後続の蟲たちが、仲間の残骸を踏み越え、津波のように押し寄せてくる。
「……ボス。ファンタジーのショウタイムは終わりか?」
カチャリ。
背後から、冷たく重い金属音が響いた。
「次は、俺たち(LAPD SWAT)の出番だ」
防弾バリスティックシールドを構え、SCAR-Hをスリングで吊った鮫島。
ベネリM4にスラッグ弾を装填し、ニヤリと笑うニコラス。
二人の腰には、Amazon産『アースジェット(プロ用特大サイズ)』が手榴弾のようにズラリと装備されている。
「弾は無制限に出してやる。庭のトマトに傷一つでもつけたら、お前らの給料から天引きだからな!」
俺の貧乏くさい激を合図に。
現代兵器と化学薬品による、容赦のない「害虫駆除」の第二ラウンドが始まった。




