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EP 4

害虫駆除オーバーキル

「タンゴ(標的)移動! 時計の針で言うと12時の方向! 壁を這い上がっているぞ!」

「ジーザス! 信じられない登攀とうはん能力デス! ユーゴ、発砲許可を!」

俺の家のリビングで、ピンクのウサギさんスリッパを履いた屈強な元SWAT隊員二人が、一匹の『G』を相手に極限の近接戦闘(CQB)を展開していた。

「待てニコラス! 俺たちの使う弾薬は、あのクソボッタクリ女神ルチアナから金貨で買っているんだぞ! この5.56mm弾一発で、牛丼が三杯食える! 無駄撃ちはするな!」

「オーウ……シビアな資金難リソース・マネジメントデスネ……ッ!」

貧乏くさい会話を交わしつつも、二人はSCAR-HとベネリM4の銃口をピタリと黒い影に向けたまま、一切の隙を見せない。

その時だった。

壁に張り付いていた黒い影(G)が、突如として動きを止めた。

そして、背中の羽を、ゆっくりと広げたのだ。

ブゥゥゥゥンッ!!

「飛んだァァァァッ!!??」

「ヒィィィィィィッ!! こっち来ないでぇぇぇっ!!」

イグニス(竜人)とリーザ(人魚姫)が絶叫し、キャルル(月兎族)が悲鳴を上げて俺の後ろに隠れる。

地球人にとっても異世界人にとっても、あの黒光りする生命体の『飛行モード』は、根源的な恐怖を呼び覚ますらしい。

「敵、航空戦力エアボーンを展開! 軌道予測不能!」

「ニコラス、カバー! 化学兵器ケミカル・ウェポンの使用を許可する!」

鮫島がアサルトライフルを背中に回し、代わりに腰のポーチから素早く円柱形の筒を抜き出した。

――俺が昨日、Amazon(異世界版)でポチっておいた『アースジェット(プロ用特大サイズ)』である。

「フラグ・アウト(手榴弾投擲)!!」

鮫島は、殺虫剤のノズルをまるで火炎放射器のように構え、空中を飛び回る『G』に向かって強烈な噴射を浴びせた。

プシュアァァァァァッ!!

致死性の(虫にとっての)白い霧が、リビングの空間を制圧していく。

毒霧の直撃を受けた黒い影は、空中でバランスを崩し、フローリングの床へと墜落した。

「今だニコラス! ブリーチ(突入)!!」

「イエッサー!」

ニコラスがショットガンの銃床で構えを取りながら、スライディングで『G』との距離を詰める。

そして、倒れてピクピクと動く対象の至近距離に立ち、容赦なくアースジェットの二撃目を――

「死ねェェェッ!! 対象ターゲットにトドメの化学兵器を注入シマース!」

プシュゥゥゥゥッ!!

『ピィィ……ガガッ……システム……機能停止……』

微かな機械音のような断末魔を残し、『G(実は死蟲王の極小偵察機)』は完全に沈黙した。

「……クリア!」

「ターゲット・サイレンス! 脅威は完全に排除されマシタ!」

二人の元SWAT隊員は、ウサギさんスリッパを履いたまま背中合わせに立ち、完璧な制圧完了のサインを交わした。

リビングには、フローリングのワックスの匂いと、強烈な殺虫剤のローズの香りが充満している。

「……お前ら」

俺は、換気のために窓を全開にしながら、額に青筋を浮かべて二人を睨みつけた。

「一匹の虫に大騒ぎして、リビング中を殺虫剤まみれにするな!! 息が詰まるだろ! どんだけビビりなんだよお前ら!」

「違うぞボス。どんな小さな脅威であれ、全力で排除するのがプロだ」

「イエス! 慢心は死を招きマース!」

ドヤ顔でサムズアップしてくる二人。

もうダメだ。こいつら、戦術の天才かもしれないが、日常の偏差値が低すぎる。

「加藤さん……その、お掃除終わりましたか……?」

ルナ姫が、自分の周りにだけ風の魔法の結界を張って、申し訳なそうに尋ねてくる。

「ああ、終わったよ。すまんな、騒がしく――」

俺が謝ろうとした、その時だった。

窓の外を眺めていたイグニスが、真っ青な顔をして俺の肩を掴んだ。

「あ、兄貴ィ……」

「なんだよイグニス。もう虫は退治したぞ」

「い、いや……違うんでさぁ。アレを、見てくだせぇ……」

イグニスが震える指で指し示したのは、開け放たれた窓の外。

ポポロ村を取り囲む、深い夜の森の方向だった。

「……は?」

俺は、自分の目を疑った。

暗闇に沈む森の中に、ポツリ、ポツリと『赤い光』が灯り始めている。

一つ、十、百、千――。

無数の赤い発光体(複眼)が、森の木々を埋め尽くすように密集し、不気味な金属の擦れ合う音を響かせながら、ポポロ村に向かってゆっくりと進軍してきていたのだ。

「オーウ……ボス。どうやら、さっきのはただの『斥候スカウト』だったようデスネ」

ニコラスが、ベネリM4のポンプアクションをガシャリと鳴らした。

「……数は、目視できるだけでも一万以上。……全員、武装しているな」

鮫島が、コーヒーキャンディを噛み砕きながら、SCAR-Hのセーフティを外した。

冗談じゃない。

35年ローンで買ったばかりの俺のマイホームが、得体の知れない大群に包囲されている。

「お前ら! 庭の芝生だけは絶対に踏ませるなよ!!」

俺の悲痛な叫び声と共に、ポポロ村防衛戦(という名の、過剰な害虫駆除)の火蓋が切って落とされた。

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