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暗い寒い冷たい
暗い寒い冷たい暗い寒い冷たい
………ねえ、
助けてよ……
そう聞こえたような気がして振り返った。
「どうしましたか?」
「ん。いや、何でもないよ。」
後ろを歩いていたツクが首をかしげる。
その頭をそっと撫でてあげて、行こうか、と言った。
空耳にしては切実で、いやに耳につく声だった。
「……♪……♬………♪」
渇いた口から潰れた音しか出ないのに。
切れた唇が痛かったのに。
何度も何度も何度も何度も
ただ何かを手繰り寄せるためだけに繰り返していた。
歌詞のない、
メロディーだけの音楽を。
聞いたこともない、無意識下の音楽を。
なんという曲かも、どこで歌われているのかもわからない。
でも、口にせずにはいられない。
「………♪……」
ああ、いやだ。
いやなのに。
この音を聞くと胸が苦しくなるの。
寂しいのか痛いのか、辛いのか苦しいのか
今じゃもうよく分からない。
ただ一つ言えることがあるとすれば、
この歌は違う。
この歌は違うんだ。
こんなところで歌われる歌じゃないんだ。
こんなところで「ねえ君。その歌知ってるの?」
……………。
驚いた。
だって急に話し掛けてくるのだもの。
自分の声しか聞こえなかった耳の中に急に入ってくるのだもの。
優しい顔のお兄さんが私を見下ろしていた。
私と同じくらいの可愛い女の子も一緒に。
「………♪…………♬」
「うん。随分と懐かしい響だ。」
うんうん、と頷く彼に、私は何も言わずただ歌い続けた。
大丈夫、問いかけることはない。
彼は私の知りたいことを全て吐く。
「私は、知りませんが。どちらの歌ですか?」
「ん~?そうだねえ。三、四年前まで活動していた旅の音楽集団で歌われていた歌だよ。歌詞はたしか………」
彼は私の音だけの音楽に言葉を被せてきた。
A color that is neither red nor vermilion
You covered me
I'm scared of staring at myself,
so I gently turned my eyes away
All right, believe me.
You who said so.
After all you are a liar.
I know everything
I know inside you
私の音に彼の言葉が重なります。
響は……新しくなりました。
「どういうことですか?」
「歌詞の意味かい?さあ、この歌詞に意味なんてないのかも知れないね。」
音しかなかった歌に歌詞がついても、
その歌詞は意味にはなりません。
それはまだ私の中ではまた一つの音にしかなりませんでした。
ただ、どうでしょう。歌詞がついた方が幾分か懐かしいような気がしました。
「それを、どうして彼女が知っているのでしょうか?」
「………まさか、生き残りかい?」
「………♬…♪…、」
やめました。
もう歌いませんでした。
歌えませんでした。
ただ一言、いつか誰かに言われた言葉がありました。
『その歌と、この存在を知られたときは、諦めなさい。』
『諦めて、あなたもまた死になさい。』
いわれました私は、意味もわからずそれを信じました。
「………」
「おや、もう歌わないのかい?」
「………歌えません。知ってる人には歌えません。」
「君のことを?君たちのことを?」
「私達のことを。」
「そうだね。君のことは知らないこど、君たちのことは知っているよ。随分昔に聞いた話さ。」
彼は私の目の前にしゃがみ込みました。
その瞳が
濡れ羽色の瞳がキラリと光りました。
「殺人を生業とする人々がいる……と。グループ内で生まれた、もしくは拾われ育てられた子供達は、皆英才的な殺人の技を教え込まれていて、一騎当千の武器になると。」
少女が息を吞む音がしました。
見えませんか?
そうですね。
私はそんな私のことが何より嫌いでしたから、
何かを失ったその時に始めにそれを消しまして。
嫌だった
痛かった
気持ちが悪かった
助けて助けてよ。
私は只見上げていました。
相手がどうでるのか探れ、それが1番始めに憶えたことでした。
「そうだね……君もまたその一人だというのなら、その才能を無駄にするのは惜しい。実に惜しいよ。そう思わないかいツク。」
「はい。そうですね。」
「僕は、ぜひ欲しい。」
「……席を、ご用意いたしましょう。」
「うん頼むよ。話が早くて助かる。」
少女はどこかへ歩いて行きました。
それを和やかに見送りながら、男はこちらに振り向きました。
「さて、どうする君は。」
「……………。」
「そうか。じゃあ、行こうか。」
彼はそう言って手をさしだした。
私はその手をじっと見て、
少し戸惑った。
でも、もう縋るしかないような気がした。
ここは暗くて寒くて冷たいのだから。
あの歌はここのためにあるのではないのだから。
私は………
私は一人ではいきられないのだから。
そっと握った彼の手は手袋の感触が思った以上に堅かった。
「いつか、私があなたを殺すかもよ?」
「君がそうしたいならそうしなさい。」
「私は、息をするように殺すのよ?」
「僕は息をするように人に殺しを押しつける。」
「………。」
濡れ羽色の夜が深い
溺れるまで後………




