八十四話目
「うおおおおおおっ! よかったあああああっ!」
アレックスが涙ながらにメアの方に駆け寄る。メアは困ったように、けれど嬉しそうにそちらを眺めていた。
そこで、俺はアルトリアの方に視線を寄越す。
「ありがとう……本当に、ありがとう」
「よいよい。これくらい何ともないわい」
「って、それより俺普通に入れたが、どういう理屈だ」
そこでアルトリアは「ああ」と頷き、
「いやな、あれは嘘じゃ」
「はあっ!?」
「だってお主、もし中におったら絶対騒ぐじゃろ?」
「騒ぎはしない……けど」
たぶん、取り乱していたとは思う。
すると、俺の反応を見てか、アルトリアはクスクスと笑った。
「やはりな、年は離れていようが、妾の家系じゃのう。よく似ておるわ」
「誰に?」
「妾の夫じゃ」
そこで、アルトリアはふと悲しそうな顔になって告げる。
「元々な。この術は夫を助けるために作ったものなのじゃ」
「え……?」
「夫はな、病に侵されており、あと一年も生きられぬほどじゃった。それが嫌で術を開発し、自らも不老不死となったものの……術をかけたのは失敗じゃった。病を持ったまま不老不死になったあやつは苦しんでおった……不老不死の殺し方を開発したのはそれからさらに一年経ってのことじゃった。皮肉じゃろう? 愛する者を生かすために開発したのに、結果的に妾は自分の手であやつを殺したのじゃ」
だからか。メアが病を持っていないのを確認したのはそのためだったか。
しかし、アルトリアは何故……。
「なぁ、何で生きているんだ?」
「何?」
「いや、それだけの絶望をおっているとしたら、俺ならきっと耐えられない。そう思っただけさ」
それを聞いたアルトリアは一瞬呆けた顔を作ったものの、すぐに豪快に笑いだした。
「やはり青いのう。まぁ、よい。理由は教えてやろう。それはな……この世界を愛しておるからじゃ。お主にはわかるかのう? 日々移ろいゆく景色や、文化。それに技術。それらを見るのは中々楽しいものじゃぞ? たま~に下界に降りてはそれらを楽しんでおる」
そう告げるアルトリアはどこか嬉しそうに見えた。たぶん、こいつは生き方を見つけたのだろう。俺も、そうだ。
だからこそ……言わなければ。
「なぁ、メア」
「なぁに、ウル?」
俺はそちらに体を向け、そっと告げる。
「メア。お前さえ良ければ、一緒に旅をしないか?」
そこで怯むことなく、俺は告げる。
「俺もこの世界を知らない。お前もこの世界を知らない。それに二人とも不老不死だ。世界を回るのに、これ以上の理由がいるか?」
メアは一瞬ポカンとした表情を浮かべたが、
「そうね。それは素敵だわ。でも……」
そう言ってアルトリアの方を見やる。すると彼女はその心情を察したかのように頷き、
「安心せい。お主はもう立派な不老不死。病気もすっかり治っておるし、旅をしても何ら問題はないわい」
キッパリと断じた。
「なら……お願いするわ。私も一緒に、あなたと行きたいの」
「そうか。なら、こちらこそだ」
俺とメアはしばし見つめあい、クスリと同時に笑った。
と、そこでアルトリアが口の端を吊り上げながら、
「ほぅほぅ。年下が好きなところまで似ておるとは、血は抗えぬものじゃな」
そんな冷やかしを入れるのだった。




