八十一話目
まだ涙を流し続けるメアの肩を抱きながら、俺はキッパリと断ずる。
「当てはある。お前がいいというのなら、俺は今すぐそこへ向かおう」
「本当に……出来るの?」
「ああ、もちろんだ。約束する」
メアはしばしポカンとしていたものの、やがて淡い笑みを向けてくれた。
「もし……それが本当なら、ぜひお願いしたいわ」
「ああ、そうか。それなら、行くぞ」
「ええ……行きましょう」
俺は彼女に頷きを返しつつ、指を鳴らす。それと同時、空間魔法が解除された。
すると、俺の眼前に移るのはメリーたちの姿。全員こちらを心配してきてくれたらしい。
俺は一層眼光を強めながら、ハッキリと告げた。
「メリー。お前、アルトリアの家を知っているよな?」
「ああ……だが、なぜ今なのだ?」
「決まってるだろう。どうしても行かなきゃいけない用事ができた」
「それは、メアに関することか」
「ああ、そうだ」
すると、メリーはすぐさま頷きを返し、その両翼を広げた。
「ならば、乗れ! アルトリア殿の家は強力な結界が張ってあって転移することはできんからな。私が飛ぼう!」
「それで間に合うのか?」
だが、そこでメリーは不敵に口元を歪めた。
「お前は私を誰だと思っている? 偉大な丸魔法使い、マリカ・マグノリアの息子だぞ?」
それに同調するようにアレックスたちも頷く。
「そうだぜ、ウル。俺たちが魔法で補助をする。そうすりゃ、一瞬だ」
「ええ、転移魔法ではなくとも時間操作の魔法を使えば少なくとも一時間程度で着くはずよ」
「さぁ、早く行きましょう。急ぐのでしょう?」
言うが早いか、ヴィクトリアたちはメリーの背に乗っていく。
と、そこでゴーシュがこちらに寄ってきた。
「ウルさん。メア様。自分には魔法が使えません。ですが……」
「言うな、ゴーシュ。わかってるさ」
俺はゴーシュの肩をポンポンと叩き、メリーの方に向かっていく。
ゴーシュはしばし泣きそうに顔を歪めていたが、やがて吹っ切れたようでこちらに駆け寄ってきた。
あらかた全員が乗ったのを確認してから、メリーが翼を羽ばたかせた。
それに合わせて、まずはアレックスが叫ぶ。
「《神霊よ・御身の加護を我らの手に》!」
刹那、メリーの体が薄く発光する。筋力強化魔法によるものだ。
続いて、リーシャが声を張り上げる。
「《地の精・星の精・一時の休息を噛み締めよ》!」
数秒後、今まで吹いていた風がピタリとやむ。おそらく、時間停止魔法だ。
ヴィクトリアはメリーの背に手を当てながら、叫び声をあげた。
「《弾けろ・風よ空よ・暴虐の限りを尽くせ・神々の息吹》!」
瞬間、俺たちの周囲で風が渦巻く。風の精霊の加護を付与したのだ。
最後に、俺が大声で叫ぶ。
「《さあ・汝の怒りを解き放て・今がその時・目覚めの時》!」
それと同時、俺たちの体を淡い光が包み込む。高速で動かれた時の盾だ。
瞬間――メリーが力強く羽ばたいていく。おそらく、いつもの最高時速の数十倍の速度。あっという間に景色が変わっていく。
俺はもう一度メアの方に視線をやりながら、そっとその頭を撫でた。
「メア。安心しろ。俺たちがついているからな」




