八十話目
「ど、どうしたんだ、メア?」
たまらず問いかけると、メアはゆっくりと頷いた。
「ごめんなさい……ちょっと席を外すわ」
それだけ言って彼女は俺たちの元から離れて行ってしまった。
「どうしたんだろうな? メアの奴」
無神経なことを言うアレックスに鋭い視線を寄越してから、俺は彼女の後を追った。
「待てよ、メア!」
「来ないで!」
彼女にしては珍しく声を荒げている。流石にこれは……ただ事じゃない。
「《隔離世の門よ・開け》!」
俺はすぐさま魔法を詠唱。すると、俺を中心に暗い闇が広がり、メアと俺を包み込んだ。
ここはいわば俺の占有空間。外界からは隔離された場所だ。
俺は戸惑うメアの方に寄って、問いかけた。
「どうした? 何があった?」
彼女は何も言わない。ただうつむいて涙を流しているだけだ。
「頼む。言ってくれ。ここには誰もいないから」
それから息も詰まるような沈黙が流れたが――しばらくしてメアが口を開いた。
「あのね……ウル」
「何だ?」
「私やっぱり……死にたくない」
そこには間違いなく、彼女の思いが込められていた。
メアはなおも俯いたままポツリポツリと語り始める。
「私、今までは死ぬことなんてどうでもいいと思ってた。だって、お部屋に閉じ込められたままつまらない日々を送るくらいなら死んでしまった方がいいもの」
そこで彼女は息を吸い、
「でも、みんなと出会ってわかったの。この世界には楽しいことがたくさんあるって。美味しいお料理や綺麗な景色なんかもたくさんあるって」
声が震えている。俺はただ、それを黙って聞いていることしかできなかった。
「それで、さっきのを見たら……全部思い出しちゃって。ウルと会って、王宮を出て、色んなところを回って……色んな楽しい思い出が、溢れてきたの」
そこで彼女はバッと俺の方を見やり、
「やっぱり私……死にたくない。もっと皆と……生きていたい!」
そう――告げるのだった。
メアは涙をぼろぼろと流しながらひきつった声を喉から漏らしている。
それは見ているだけで胸が締め付けられるほどつらい。
だからこそ……言わなければ。
「メア。いいか?」
「何?」
「俺もだ。俺もお前と居れて楽しかった」
「ええ……そうね。ありがとう、そう言ってくれて」
「だからさ……もっと一緒に生きよう。これからも、ずっと! ずっとだ!」
「でも、もう私は……」
「いや……これは前から言おうか迷っていたんだ。お前にこんな重荷を背負わせたくなくて……でも、もしお前がいいと言うなら」
そこで俺は息を吸い、
「お前に不老不死の魔法をかけてやる」
ゆっくりと、噛み締めるように言った。




