七十二話目
「もう行くのかい?」
ガリーナがポツリと告げる。
「せっかくだから泊まっていけばいいのに」
「悪いけど、今日は帰るよ。明日もあるしな」
「そうですか。では、皆様に竜王の祝福があらんことを」
ガリーナに手を振りつつ、俺たちはメリーの背に飛び乗った。すると徐々に高度があがっていき、里が米粒ほどの大きさとなる。
「どうだった、メア。楽しかったか?」
「ええ、とても。あの後ガリーナに色んなところへ連れていってもらえたわ。美味しいものも、たくさん食べたもの」
「ああ、それはよかったな」
くしゃくしゃと彼女の髪を撫でる。
ああ、温かい。彼女は今生きている。
それはどれだけ素晴らしいことだろう。
「ねえ、ウル。大丈夫?」
「ん? ああ、俺は大丈夫だよ」
きっと彼女はガリーナから聞いたのだろう。俺にも同様の死相が出ているということを。優しい彼女のことだ。自分のことよりも俺のことを気にかけてくれているに違いない。
「ところでウルさん。明日ちょっと朝早く起きてもらってもいいですか?」
ふと、ゴーシュが口を挟む。俺はメアに断りを入れてから彼の方に寄った。
「どうした?」
「明日、自分の番ですよね? 自分は魔法も使えないのでちょっと補助してもらいたいんです」
「なるほどな。それくらいならいくらでも手伝うぜ」
「ありがとうございます」
「で、どこに行くんだ?」
そこでゴーシュは息継ぎを挟み、
「市場に行こうかな、と」
「市場?」
「はい。あ、でも何をするかは言いませんよ? やっぱりサプライズは大事ですから」
「わかってるって。俺はお前の送迎だけすればいいんだろ?」
「すいません、そうなります」
「謝らなくていい。ま、一緒に頑張ろうぜ」
おそらく、メアが生きていられるのはあと数日。その間どれだけ良い思いをさせてあげられるかが、この作戦の肝だ。
俺は深いため息をつきながら空を見上げる。
静かでうっとりするほど綺麗な月が、俺たちを照らしていた。




