七十一話目
しばらく墓前で祈りを捧げてから、俺はふと立ち上がって踵を返した。
「そろそろ行くよ。ごめんな、マリカ」
それだけ言って魔方陣を展開。一瞬で俺は元いた場所へと戻っていた。
すると、こちらに気づいたらしきメリーが告げる。
「ウル……先ほどはすまなかった」
「いや、俺の方こそ大人げなかったさ。八つ当たりなんてダメだよな」
「もういいじゃない。それより、これからをどうするかよ」
リーシャの声掛けに俺たちは頷く。ああ、そうだ。これからが大事なのだ。
もう――彼女は死ぬというのは決定づけられたことだ。とすれば、俺は限られた時間の中で何をできるのか考え出せねばならない。
「つっても、どうするよ? 俺たちに何ができる?」
アレックスがぶっきらぼうに告げる。頬には涙の跡が残っていた。
「決まってるじゃない。私たちにできることは一つ。メアにいい思いをさせてあげるだけよ。少なくとも、泣かせるようなことがあってはならないわ」
「そうです。私たちはあの子のために尽くすと決めたじゃないですか」
リーシャとヴィクトリアはキッパリと断ずる。二人とも、そこに一切の迷いはなかった。
「明日はゴーシュだよな?」
「ええ、そうよ。だから、私たちは陰ながらでもバックアップをしようと思うの。少なくとも、何もしないよりましだわ」
「そうですね。それが良いでしょう」
「いや、ちょっと違うんじゃねえか?」
アレックスが不意に口を開いた。彼は何だか言いよどんでいたが、やがてぼそぼそと語り出す。
「俺の勘違いだったらすまねえが……メアはこれまでも十分楽しんでたぜ? 少なくとも、俺たちといる時はずっと笑顔だった。だからさ……そう変に気負うこともねえんじゃねえか? 逆にあいつに気遣いがばれることの方が問題なんじゃねえか?」
しばしの沈黙が流れた後で、ぷっとリーシャが噴き出した。
しかもそれは伝播し、ヴィクトリア、メリー、そして俺まで笑い出してしまう。
一方でアレックスは訳が分からないと言った様子で困惑していた。
「な、何だよ!? 俺何か変なこと言ったか!?」
「いや、言ってないわよ。むしろ正論。でも……ハハッ! まさかアレックスに気付かされるなんてね」
「本当ですね。ちょっとビックリしました」
「何だよ二人そろって……」
リーシャたちの気持ちはよくわかる。
だって、自分たちより明らかに単純なアレックスに真理をつかれたのだから。
たぶん、馬鹿だからだろうな。
レックスもそうだった。馬鹿のくせにたまに的を射たことを言うから俺たちはたびたび驚かされたものである。
気づけば、俺たちは高らかに笑っていた。
ああ、そうだ。過ぎたことを悔いてもしょうがない。
俺たちは――彼女を幸せにしなくてはいけない――いや、してあげたいのだから。




