七十話目
あれから、俺たちはメアとしばらく距離を置いた。というのも、彼女に合わせる顔がなかったからだ。
せっかく絶好の機会を用意してもらえたというのに、俺たちはそれを活かせなかった。
いや、儀式は成功した。けれど、彼女の命を救うことはできなかった。
これは、失敗と同義だ。
「ああ……クソッ!」
近くにあった木を蹴りつけても気はまるで晴れない。むしろ、もやもやが増していくばかりだ。
「落ち着け。お前のせいではない」
メリーが宥めようとしてくるが、とてもじゃないが俺は腹の虫が治まらない。
俺は最低だ。
メアのために尽くすと決めたのに、彼女を救うことすらできなかった。
それが無性に……腹立たしいっ!
「やめろ。メアがそれを見たらどう思う」
「ずいぶん軽く言ってくれるじゃねえか、メリー。お前は何ともねえのか?」
「なんともないわけがないだろう! 私だって救いたかった!」
「じゃあなんでそんな落ち着いていられるんだよッ!」
「やめなさい! ここで争っても何にもならないでしょ!」
リーシャがすんでのところで割って入り、俺とメリーの衝突は避けられた。
けれど俺はそのまま苛立ちを近くの木にぶつけ、へし折る。
わかってる。勝手に熱くなってしまっていたことも。
でも、俺にはどうしていいのかわからなかった。この胸の奥で滾る熱いほとばしりをどうすればいいのかが。
「……ウル。お前はよくやったさ」
らしくもなくアレックスが俯きながら告げる。
「悔しいのは俺たちだって同じさ……あんないい子が死ぬなんて耐えられねえ」
「私もです……本当に……信じられません」
ああ、そう言ってくれるだけでいいさ。
「ウルさん。自分はガリーナさんのところに行ってきます」
ゴーシュはそれだけ言ってその場を後にした。ガリーナとメアのところに行くのだろう。ある意味それも正しい判断だ。
「……ウル。考えてみなさい。ゴーシュはあの時何もできなかったのよ? それがどれだけ辛いことかわかる?」
わかるとも。俺だって昔はそうだった。無力を呪ったことだって数えきれない。今もそうだ。
「……わりぃ。頭冷やしてくるわ」
瞬時に俺は魔方陣を展開。それから一瞬でマリカの森へと転移した。
目の前にあるのは、マリカの墓標。俺はそこに跪いてぽつぽつと語り始める。
「なぁ……マリカ。お前のことだ。たぶん天国にいるんだろう? だったらさぁ……頼むよ。メアを殺さないでいてくれるよう神様に頼んでくれよ……」
悔しいが、もう俺には神頼みしか出来なかった。
自分の無力を呪ったのはこれまで数えきれないほどあったが、今回のは格別だった。
もし、俺が不老不死でなかったら今すぐにでも腹を割いて死んでいたことだろう。
それだけ今日の出来事は俺の心に傷を残していった。




