六十六話目
あらかた食事を終えたところで、ふとメアが口を開いた。
「ねぇ、メリー。この里で済もうとは思わなかったの?」
「いや、思わなかったが、何故だ?」
「だって、ここにはたくさんドラゴンがいるじゃない? でも、あの森にはいないもの」
「むぅ……確かにな。けれど、私にとってあそこは大事な故郷だ。その上、私がこの里を見つけた時にはすでに他の魔法生物たちもいた。彼らは弱く、誰かが守ってやらねばならない。それに希少種もいる。がめつい人間に見つかればそれこそ終わりだ」
これは以前も少し話してくれたことだった。まぁ、この里を見てしまえば改めて聞きたくなるのはわかる。誰だって同族がいた方が心強いに決まっている。椅子ウサギがいい例だ。
ただ、メリーにとってはそれ以上にあの場所が大事だったのだろう。マリカが守ってきたあの場所を捨てることはできなかったのだろう。やはり、あいつの息子だ。
それをなんとなくでも感じたのか、メアは優しげな笑みを浮かべて首肯した。
「ところで、メリー。これからはどうするつもりだい?」
酒瓶を片付けながらガリーナが問う。
「一応この里を見て回らせたいのだが、構わないだろうか?」
「もちろん! では、さっさと片付けを終えなくてはならないね」
どうやらガリーナもついてくるらしい。本当にドラゴニュートとは思えないくらい活発だ。本来ならもっと温厚で控えめな種族であるはずなのにな。
それにしても、この里はまさに秘境といった感じだった。
というのも、ドラゴンが住んでいるというのもあってかなり多様な地形が存在するのだ。遠くには火山も見えるし、聞けば近くには湖もあるらしい。おまけに洞穴のようなものもちらほら見える。おそらくあそこが寝屋なのだろう。
「ところでメリー。妹は元気かい?」
「ええ、元気にやってますよ」
「そうかそうか。できれば会いたかったがね……まぁ、また近いうちに来てくれ」
「わかりましたよ、義兄さん」
「あ、ちょっと待ってくれ。できればその時には子供を連れてきてくれると嬉しいな」
だが、そこでメリーは申し訳なさそうに頬を掻く。
「……すいません。中々難しいものでして」
「ふぅむ、異種というのも関係あるだろうけど、リースは満月の時しかドラゴンの姿になれないしね。やっぱり難しいかい?」
「はぁ……申し訳ない限りで」
「いやいや、君が謝ることはない。私はそれを承知で妹を嫁に出したのだし、それに私も独身だ。自分が言えた義理ではなかったね」
何か実家に帰ってきた息子に対する母親みたいだ。見れば、リーシャたちも心当たりがあるようで渋い顔を作っている。
けれど、メアだけはキョトンとした表情を浮かべている。
「? 赤ちゃんができることと、ドラゴンの姿でいることがどう関係があるの?」
「ん? それはね……」
「義兄さん」
「おぉっとすまないすまない。わかったからそう睨まないでくれよ、義弟よ」
案外威厳がないな、ガリーナ。メリーはドラゴンの中でも高位の実力者だし、その恐ろしさは本能的に理解できているのだろう。彼は冷や汗を流しながら後ずさりしていた。
「? 二人は何をしてるの?」
「気にしないでいいですよ」
「そうよ。考えるだけ無駄だわ」
ヴィクトリアとリーシャがメアを連れて遠ざかっていく。別に俺たちが言ったわけじゃないのに、なぜか非難を含ませた視線まで向けてきた。
仕方ないので、俺もガリーナの方に視線を寄越す。
彼はやや申し訳なさそうに、メリーに向かって笑いかけていた。




