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六十五話目

「さあさあ、何でも食べて行ってくれ。幸いここには有り余るほど食料がある。何と言っても私たちはドラゴン族だからね」

 ガリーナは笑いながら言う。俺たちの目の前には食材が山積みされており、見ているだけでお腹いっぱいになりそうだった。

 しかしそれはあくまで言葉のあや。俺たちは夢中になって料理を頬張っていた。

 これまた人間が作るものとはまるで調理法も違う。

 例えば魚をすり身にしたものを香草で巻いて香りづけしたものや、ミンチ肉をくりぬいた野菜に入れなおしたものなど様々だった。

「楽しんでいますか?」

 ふと横を見ればそこには酒瓶を持ったガリーナが立っていた。彼は温厚な笑みを湛えつつ尚も言葉を継げる。

「個人的に、私はあなたに興味があるのです。あなたは人間の身でありながら、この私よりも長く生きている。普通ではありえないことだ。何をなさったのですか?」

「……不老不死を望んだだけだ」

「ほぉ。ということは、あなたは不死なのですね?」

「ああ、そうだ」

「なるほど。しかしあなたには死相が見える」

「何?」

 死相? ありえない。俺は不死だ。死ぬことができないのは実証済みである。

「いや、深く考え込まないでください。なにぶん不老不死の方と会うものは初めてなもので、この死相が常人なら死に至るほどの傷を負うということなのか、はたまた本当に死ぬのかは私にはわかりません」

「お前には人の死を見極める能力もあるのか?」

「いいえ。これも気を見る能力の派生ですよ。死に至る人間の気というのは、本人の知らないうちに荒れるのです。例えるなら、嵐の前の海のように」

 ドラゴニュートとは魔法生物の中でも別格とされる。ある種の神聖と霊験を備える種族だ。俺もあったのは初めてだが、ガリーナが並みのドラゴニュートではないのはわかる。纏う覇気が只者ではなかったからだ。

 ふと、こちらに気づいたメリーが口を挟んでくる。

「義兄さん。なるべく声を控えて」

「ああ、すまないね。ところでメリー。彼女のことだが少しいいかい?」

 ガリーナの指の先にはメアの姿。幸いにもリーシャと談笑しており気付いていないらしい。ガリーナはそのまま声を低くして告げた。

「彼女にも死相が見える……だが、何故だろうね? 非常に安定した死相だ。あのようなものは初めて見る。波立つどころかずっと平坦――それこそ死相が出ていない者たちと同じだ。けれど死相は見える。何か心当たりはないかい?」

「……彼女は安死病とやらを患っているそうです」

「何? いや、それにしてもおかしい。私は以前人里に下りて患者の死相を見たことがあったが、その時は異常に波打っていた。少なくとも彼女のように平坦なものでは断じてなかったよ」

 そこまで言ったところで、ガリーナは思いついたように口を開く。

「いや……確証はないが、一つ心当たりがある。彼女は最近何か楽しい思いをしたかい?」

「ああ、ここ数日は色んなところに遊びにいった」

「なるほど。合点が言ったよ。病は気からという言葉は知っているね? 実はその通りなのだよ。彼女は今病気のことを忘れかけている。少なくとも、表面上はね。つまり、上書きだ。死への恐怖をそれ以外のプラスの感情で上書きしているのだよ」

「それは……いいことなのか?」

 そこで力強くガリーナは首肯を返す。

「もちろん。今、彼女には『生きたい』という意思が芽生えているのだろう。それは間違いなく体にいい影響を与えている。ただし、あくまで気は気だ。病が回復することは断じてない……希望を断つようですまないが、嘘をついても君たちのためにならないだろう」

「いや、いいさ。ありがとうな、色々聞かせてくれて」

「いいや、義弟の友人のためだ。私でよければ全力で力を貸そう」

 ガリーナは堂々とそう告げ、俺の盃に酒を注いだ。

「きっと彼女は今幸せなのだろう。でなければ、あんなに穏やかな死相が見えるはずがない。出来る限り、それが続くように私からも祈るよ」

「ありがとう。それと念のために聞いとくが、他に死相が見えるような奴はいねえか?」

 ガリーナはあらかた視線を巡らせて、こくんと頷いた。

「今のところは見えませんね。女性陣は安定していますし、むしろ良い気の流れをしています。けれど、問題はあの方ですね。ほら、大人しそうな男性です」

「ああ、ゴーシュか。まさかあいつにも何かマズイことが……」

 しかし、ガリーナはそこで困ったようにポリポリと頬を掻いた。

「いや、彼の場合は何というか……女難の相が出ていますね」

「女難?」

「ええ、正直かなりレアなケースです。言い忘れていましたが、気にはそれぞれ固有の色があるのですよ。生まれ持った色は決して変わることはない。けれど、彼の気には別の色が混ざっている。それも、何十、何百と。一国の王でもこうはいきません。ハッキリ言って、あれこそ呪いのレベルですよ」

 なるほど、お墨付きを頂いたわけだ。

 というか、男所帯の軍隊から俺が連れ出さなければ女難の相も出なかったのでは?

 そう思うと少しだけ悪い気がした。

 ガリーナは近くにあった肉を口に放り込みながら言い放つ。

「しかし、それと比較してもあなたと彼女の気は異常です。私も二百年以上の時を生きてきましたが、初めて見ましたよ。数奇なものですね」

「ま、いいさ。助かったよ」

「どういたしまして。ささ、また料理を運んできましょう」

 それだけ言ってガリーナはそそくさと走り去ってしまった。

「すまんな、ウル。気を悪くしなかったか?」

「いいや、全然いいさ。それよりメリー。お前、あいつより年上だよな?」

「む……まぁ、そうなのだが、やはり年下といえど義兄なのでな。そう呼ぶことにしているのだ」

「お前変なとこ義理堅いよな、いまさらだけど」

 マリカ。お前の息子は本当お前そっくりだな。ったく、懐かしくなっちまうだろうが。

 俺は空を見上げながら、グッと盃の中身を飲み干した。


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