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六十二話目

 しばらくして落ち着いたのか、メアは砂浜に腰を下ろしていた。その隣ではリーシャとヴィクトリアが座り、一緒になって砂の城を作っている。

 一方男性陣はと言うと……ビーチバレーに興じていた。

 俺とゴーシュ。アレックスとメリー。一応メリーは変化魔法をかけており、人間の姿をしているのでプレイ自体に問題はない。あくまでルール上はだが。

 メリーは仮にもドラゴンだ。今、姿を人間に似せているとはいえ、力はそのまま。つまり……めちゃくちゃ強い。

 ビーチボールが弾丸のごとき速度で飛来し、コートの端に突き刺さる。ゴーシュは反応することすらできず棒立ちだった。

「……すまん」

 申し訳なさそうにメリーが頭を下げる。どうも手加減が難しいらしく、先ほどから四苦八苦しているようだった。まぁ、それも十分強いからいいと思うのだが。

「すいません、ウルさん……」

「気にすんな。楽しくいこうぜ?」

 ゴーシュも決して下手ではない。けれど、メンバーがメンバーだ。

 かつて最強クラスの力を持っていた俺に、筋力馬鹿のアレックス。そこにドラゴンのメリーまで加わっているのだから、とんでもないことだ。普通にライオットができるくらいの戦力は揃っていると思う。

 が、今の目的は楽しむことだ。そう思い俺はボールを掲げ、

「《弾けろ・雷撃よ》!」

 詠唱しつつサーブを決めた。が、

「甘い! 《王騎士の聖盾》!」

 メリーがすかさず防御呪文を詠唱し、ボールを跳ねあげる。その先にいるのは――アレックス。すでに詠唱を開始しているのか、腕が鉄のようになっている。

「やれ! アレックス!」

「おうよ! 《鋼の槌よ・正義の一撃を振り落とせ》!」

 直後飛来するのはまさしく流星と表現するのが正しいと思うほどの速度を持ったボール。それは見事に――

「ごふぅっ!?」

「ゴーシュ!?」

 ゴーシュの腹部に直撃した。その口からはくぐもった声が漏れ、容易に体が砂浜を転がっていった。

 しかし、俺が駆け寄ろうとするのも束の間、ゴーシュは小さく呻き、

「ウルさん……ボールはまだ生きてます……」

 そう。衝撃で吹き飛ばされたボールは高く宙を舞っていた。

 だからこそ、俺は飛ぶ。

「《竜王の末裔よ・我が右手にその権威を宿し・断罪せよ》!」

 俺は龍のものと化した右手を振りかぶり、思い切りボールに叩きつけた。

 唸りを上げ、飛来するボール。それはちょうど守備が手薄になっていたコートの左端に突き刺さり、破裂した。

「おい、ゴーシュ! やったぞ!」

「そうですか……よか……った……」

 力の抜けたゴーシュの体を強く抱きしめる俺。そちらを見ながら、リーシャはボソリと、「馬鹿じゃないの?」

 小さく呟いた。


 ――時刻は夕方六時。遊び疲れてへとへとになった俺たちに、主宰であるリーシャがキッパリと告げた。

「さぁ、今からいい所へ行くわよ」

「え~……もうここで昼飯済まそうぜ?」

 が、リーシャはアレックスの方をキッと睨み付ける。

「いいから。行くわよ」

 こうなった彼女が頑固なのはよく知っている。だからこそ、俺たちは彼女の後をついていった。

「どこに行くんですか?」

 数時間ほど気を失っていたゴーシュが問う。

「内緒。けれど、いい所なのは保証するわ」

 そう言って彼女はあるものを取り出した。それは――一枚の紙きれだった。

 リーシャは躊躇なく、それを破り捨てる。すると、俺たちの足元に巨大な魔方陣が展開された。おそらく、簡易の魔方陣が書かれていたのだろう。

 数秒後、俺たちはある場所へ転送された。

「ここは島の反対側にある洞穴よ。ここでちょっと待っていて」

「? 何かあるのか?」

 見た限りここは普通の洞穴だ。と言うよりどこか寂れた雰囲気を見せている。

 だが、リーシャはニッコリと笑みを浮かべたまま告げた。

「もうすぐ時間よ……ほら、見てごらんなさい」

 彼女が洞穴の外を指さした。その時だった。無数の花火がどこからともなく上がったのは。それは海面に反射し、まるで二つの花火が同時に上がっているような錯覚を覚える。

「わぁ……」

 メアが感嘆詞を漏らす。見れば、全員うっとりとその光景を眺めていた。

 また、夕焼けが海を赤く照らしているのもいい。確かに花火は夜に映えると思われがちだが、夕焼け時にやるのもまた乙なものだ。

 太陽――夕焼けの周りに星が散っているような感覚だ。これはなかなか味わえるものではない。

「本当なら、船の上で見るのがよかったけど、こっちもまたいいでしょう?」

「ええ、すごく綺麗だわ」

 メアがそう答えるとリーシャはふっと頬を緩めた。が、俺はここで聞かねばならない。

「なぁ、花火っていつまで続くんだ?」

 見た限り打ち止めになる気配がまるでない。どころか、ますます激しさを増していた。

 リーシャは、ふと顎に手を置きながらポツリと答える。

「そうね……ざっと三時間くらいかしら?」

 金に物を言わせた戦略に、俺たちはただただ苦笑することしかできなかった。


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