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五十九話目

 さて、無事乗船した後はすぐに出航となり、俺たちは海原を渡っていた。

 潮風がそっと頬を撫でる。久々に感じる潮の匂いは懐かしくて心地よい。

「どう? 中々いいものでしょう?」

 サングラスを押し上げながらリーシャが言う。

 本来なら魔法でも動くらしいのだが、それでは風情がないということで彼女自らが家事を取ることになったのだ。それが案外手慣れていて、安心できる。

「むぅ……船に乗るというのは初めての体験だ」

 メリーがぼそりと呟く。

 どうやらマリカが生きていたころは二人でよく旅をしたがほとんどメリーが飛行していたり、魔法で転移したりすることが多く船に乗ったことはなかったらしい。マリカは変身魔法も出来たような気がするが、あいつのことだ。きっとありのままのメリーが好きだったのだろう。何となくその気持ちはわかるような気がする。

「にしても、綺麗な海ですね」

 ゴーシュがにこやかに言い放つ。最初こそ人魚がいるのではないかと怯えていたが、リーシャがいないといったおかげですっかりこの調子だ。よっぽど昨日は絞られたらしい。ちょっと同情した。

 さて、チラリと後ろを見れば、食材を用意しているヴィクトリアの姿が映ってきた。食材はリーシャが調達したらしいが、今は航海で忙しいため彼女が代理で行っているらしい。ヴィクトリアはテキパキと準備をしていた。

「俺も手伝うぜ」

「ありがとうございます」

 そこにアレックスも加わった。今二人はテーブルを日陰に移動させている。何だか微笑ましい光景だった。

 そこで俺がふっと視線を横になったところで――メアの姿が映りこんできた。仰向けになっており、身動き一つしていない。

「メア……どうかしたか?」

 顔面も蒼白だ。呼吸も荒い。

 もしかしてまた病気が……。

 そう、思った時だった。メアがこちらにそっと語りかけてきたのは。

「ウル……」

「どうした? 何だ?」

「……吐きそう」

「え?」

 直後、彼女は船の縁から頭だけ出して胃の中のものをぶちまけた。たまらず、リーシャが船の速度を緩める。

「ちょっとメア!? 大丈夫なの!?」

「……っ!」

 サムズアップをしてみせるメア。だが、胃の中のものをぶちまけながらではいかんせん説得力に欠ける。俺はなるべく彼女の顔を見ないようにしながら、優しくその背中をさすっていった。

 そういえば、メアも船は初めてか……まぁ、酔いやすい体質なのだろう。

 というか、こう言っては悪いが酔ったのがメアでよかった。

 もしメリーが酔っていたらと思うと、ぞっとする。たぶんそうなれば、俺たちに一生モノのトラウマが植えつけられるであろうことは確実だった。


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