五十七話目
夕食を終えた後、俺たちは森に無事帰還していた。空にはすっかり月が上り、辺りを明るく照らしている。
そんな中、メアは一人すやすやと安らかな寝息を立てていた。
俺はその寝顔を見ながら、そっと額に手を当てた。
やはり、病は確実に彼女の体を蝕んでいる。おそらく、もう終わりは近いだろう。
だが……諦めてなるものか。
俺は今日買ったばかりの薬やジュエルをその場に召喚。それらをすぐさまメアの方に寄せ、呪文を口にする。
「《大地の精霊よ・汝のご加護を・哀れな迷い人に与えたまえ》」
――が、結果としてそれは無駄だった。
確かに魔法は発動した。けれど、彼女の病には効かなかったのだ。その証拠に、本来なら役目を終えて消えるはずのジュエルがまだいくつか残っている。よくて数日、寿命が延びた程度だろう。
もともと、彼女の病気は不治の病であり特効薬は存在しない。
かつ、人体を治癒する完璧な魔法というものも存在しない。
俺は今自分が知っている最高位の呪文を唱えたが、それでも無駄だった。
とすれば、もう治癒の方法はないだろう。
いや……治癒とは違うが方法はある。
俺と同じ、不老不死になることだ。
けれど、それにはリスクが大きすぎる。
不老不死になるだけで病気の進行は止まらないかもしれないし、かつ病気が完全になってしまったら、彼女は物言わぬ石像と同じになってしまう。生きながらの死だ。
それに、もし成功したとしても、メアに不老不死という重荷を背負わせてしまう。
その辛さは、俺が一番よく知っている。
もしそうなったとしたら、俺は彼女に合わせる顔がない。
俺はそんなことを思いながら、空を見上げた。
何百年経とうとも、空だけは変わっていない。
せめてもの救いは、これくらいだろう。
もう――この世界のほとんどはすっかり様変わりしてしまっているのだから。




