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五十五話目

 頂上に行くまでには長い階段を上る必要がある。それを上っていく時、メアは辛そうなそぶりを見せていなかった。けれど、俺たちは終始彼女の体調に気遣っていた。

 案外今日は観光客が少ないようだった。人ごみにいると結構体力が持っていかれる。それを考えれば幸いだったと言えるだろう。

 途中途中で休憩をはさみながらも俺たちは頂上にたどり着いた。

「わぁ……」

 メアが感嘆の声を漏らす。確かに、絶景だった。

 夕焼けが街を赤く照らし、幻想的な風景を作り上げている。飛行魔法を使う時や、メリーの背に乗った時とはまた違う景色だ。

「……いいわね」

 ぼそり、とリーシャが呟く。見れば、全員その光景に見入っていた。

「どうですか? 気に入ってくれましたか?」

「ええ、とても。本当に……綺麗だわ」

 その問いにメアが答える。するとヴィクトリアは嬉しそうに頬を綻ばせていた。

「そう言ってもらえると嬉しいです。ありがとうございます」

「こちらこそ。本当に嬉しいわ」

 メアは心底感激しているようだった。

 あんな王宮に閉じ込められていたのだ。こういったことを見ることすらできなかったのだろう。

 そんなことを思いながら、俺も街の方に視線を戻した。

 美しい……けれど、やはり昔とは変わっている。

 そりゃ、名所なんかは変わっていないけれど、それ以外はほとんど変わってしまっている。俺が昔行った工場も閉鎖されているようだったし、もはや俺が知っているところというのは少ししかない。

 思い出は残っているというのに、その場所がなくなっているというのも皮肉なものだ。

 もし、俺が不老不死でなかったらこんな気持ちも抱かなかっただろう。

 それが良いことか悪いことかはわからない。

 ただ、とても物悲しいことは確かだ。

「ねえ、ウル」

 不意にメアが口を開いてきた。

「何で泣いてるの?」

「……ああ、感動してな」

 嘘だ。いや、感動したのは本当だが、それよりもあいつらとの思い出の場所がなくなってしまっているということの方が悲しかった。何だか、世界までもが俺の存在を忘れてしまっているように感じてしまう。いや、これは思い上がりか……。

「私も、感動しているわ」

 こちらの問いをまともに受け止めたメアがそんなことを口走る。

「あそこにいたままじゃ、こんな綺麗な光景みられなかったもの。本当に、ありがとう」

「ああ……こちらこそ、だ」

 そう言って俺は優しくメアの頭を撫でた。

 ――そうだ。俺は生きている。それが良いことかどうかはわからない。

 けれど、だからこそ出来ることがある。

 少なくとも、メアが生きている間は彼女に尽くそう。

 そんなことを思いながら、俺は目尻に浮かんだ涙をそっと拭った。


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