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五十四話目

 少しばかりの休息を終えた後、俺たちは時計塔の方に再び歩き出していた。その際適当に出店の料理などを買って買い食いをしている。案外様々な地方のものが集まっているので俺が食べたことがないものも少なくなかった。

 そうこうしているうちに時計塔が間近に迫る。見るなり、メアは足を速めていった――が、

「あ……っ」

「メア!」

 がくん、とその足から力が抜けその体が揺らいだ。すんでのところでメリーが支えたからよかったものの、もしいなかったらおそらく受け身も取れないまま地面に激突していただろう。

「メア様! お怪我はありませんか!?」

「え、ええ……ごめんなさい。ちょっと足がもつれちゃった」

 メアはそう言っているが、たぶん違う。

 足がもつれたのとはまた違う――もっと正確にいうのならば足が硬直したと言った方が正しい。

 おそらく――彼女の病のためだ。

 横を見れば、リーシャやヴィクトリアも勘付いたようで渋い顔をしている。

 また、ゴーシュも当然気付いているようで人一倍彼女の体を気遣うそぶりを見せていた。

「メア様。本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫よ、心配しすぎ」

「ですが……」

 メアだってわかっているだろう。俺に病のことを言った時、彼女はすでに死を覚悟していた。きっと苦し紛れに言い訳しているに違いない。

 と、そこで脇腹を小突かれる感覚。見ればリーシャが厳しい視線をこちらに寄越していた。

「顔に出てるわよ」

「ああ……すまない」

 俺は何度か顔を叩き、そこでもう一度メアに向きなおった。

「なぁ、メア。もし疲れてるなら肩車でもするぞ?」

 すると彼女はこちらに頷きを返し寄ってきた。俺がそっと身を屈めると肩に足をかける感覚。完全に乗ったのを確認してからゆっくりと立ち上がった。

「ありがとう、ウル」

「気にすんな」

 言ってトコトコと歩いていく。時計塔まではざっと十分といった距離だ。

「ねえ、ウル」

 不意にメアが口を開いた。

「私ね、肩車してもらったの初めてなの。お父様たちは……してくれなかったから」

 ああ、そうだろう。仮にもメアは王族だ。専用の乳母のようなものがいたはずだし、本当の両親は彼女に触れ合うことをしなかったのかもしれない。そう思うと何ともやりきれない思いに包まれた。

 そうこうしているうちに、時計塔に到着。どうやら入るには入場券がいるようで、ヴィクトリアは一目散にそれを買いに行っていた。それからしばらくして、帰ってきたとき、メアがまた口を開く。

「ウル、ありがとう。もう下ろしてくれていいわ」

「でもお前、疲れてるんじゃ……」

「いいの。せめて会談は自分でのぼりたいの。一段一段、ちゃんと踏みしめていきたいの」

「……ああ、わかった。けど、苦しくなったらすぐ言えよ? 俺たちがちゃんとサポートするから」

「ええ、ありがとう」

 そう言った彼女の声音はひどく優しいものだった。


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