五十一話目
帰るとすぐメアはもらったサインを嬉しそうに何度も眺めていた。よほど気に入ったらしい。パズニールのユニフォームまで着ている始末だ。
「な? 案外よかっただろ?」
「ああ。最初はどうなることかと思ったけどな」
メアがああいった競技に興味があるとは意外だった。まぁ、流血などがないだけ他の格闘技よりは安心だし見ていて派手ではあるのだが。
「さて、次は私ですね」
やや自信なさげにヴィクトリアが呟く。まぁ、気持ちはわからないでもない。
あのはしゃぎようを見たら、次にまかされる責任は重大だ。俺だったら絶対に避けたいところである。
「ま、気楽にいけよ。な?」
こういう時は深く考えないアレックスの性格が羨ましい。ここはいい遺伝だ。
「ところで、どんな計画を立てたの?」
「秘密です」
リーシャの問いをすっぱりと切り捨てるヴィクトリア。彼女の真剣だ。種明かしはしたくないのだろう。うっかり誰かが口を滑らせでもしたら、それこそおじゃんだ。
「すまん。私は今日だけ早めに寝させてもらおう」
メリーが申し訳なさそうに言う。そう言えばこいつも結構ハイになっていた。それが久々だったのかかなり疲れたようで夕食もそんなに食べていなかった。と言っても俺たちの十倍は食べていたのだが。
「あ、では自分もいいですか? ちょっとみんなが殺気を放っていますので……」
確かに森の方に視線をやれば何十もの瞳がゴーシュの方を睨みつけている。おそらく、これからこいつは食べられるのだろう。明日の体力が残るか心配なところだ。
「では、いい機会ですしここらでお開きにしましょうか」
ヴィクトリアの言を受け、俺たちはそれぞれの寝床へ向かっていく。俺は楽しげに椅子ウサギに今日のことを話しているメアに近づいて、告げる。
「なあ、メア。そろそろ行くぞ」
だが、返ってきた答えは予想とはまるで違うものだった。
「ごめんなさい、ウル。今日はアレックスと一緒に寝たいわ」
「……え?」
「だって、もっとライオットについて話したいんだもの。それじゃあね、ウル。お休みなさい」
言ってトコトコとアレックスの方に歩み寄っていくメア。奴はまんざらでもなさそうに彼女の頭を撫でていた。しかも、そこから楽しそうに談笑し始める。
――俺には娘はいないが、もしいたらこんな気持ちなのだろう。
親離れしてくれてうれしいが、同時に誰かに取られるのは死ぬほど悔しい――っと言ったところだ。
俺は小さくため息をつき、椅子ウサギの頭を撫でる。
「なあ、久々に一緒に寝るか? 牢獄にいたころはよく……」
「……グルゥ」
申し訳なさそうに唸って背を向ける椅子ウサギ。そちらには例の合成獣の姿があった。
「……椅子ウサギ、お前もか」
何故だか知らないが、ちょっと泣きそうになった。




