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五十話目

 ――それから数時間後。試合はパズニールの勝利となって終わった。

 流石に出入り口は混雑するであろうということで、俺たちはしばし席で待機している。

「そう言えば、アレックスさんは?」

 メアが言う。もうすっかり打ち解けたようで仇名呼びだ。俺も次からはそう呼ぶとしよう――案外レックスと響きが似ているしな。

 と、そこで件の男が満面の笑みを湛えて入ってきた。

「どこ行ってたんだよ、レックス」

 するとさらにニッと口を吊り上げ、

「ま、ついてきな」

 そう言って先導していくアレックス。メアはその後ろをちょこちょことついていった。

 てっきり出入り口に行くのかと思ったが、違う。何やら通用門を通って狭い道を通っていった。

「そう心配すんなって。後悔させねえから」

 しばらく歩いていくと、一つの部屋が見えてきた。それは――選手待機室。

 アレックスはノックをすることもなくいきなりドアを開けた。

 するとそこにいたのは――パズニールチームの選手たちだった。全員が楽しげに勝利の美酒を煽っている。

 と、そこで一人の巨漢――ヴァルドスがこちらにやってきた。

「よぉ、レックス! 来てくれたんだな!」

「当たり前だろ! 今日はすごかったなあ、おい!」

「ハハハ! 負けちまったけどな!」

 互いに肘でぐりぐりと押し合っている二人。見かねてか、リーシャが不意に口を開いた。

「え……ちょっと、どういう関係?」

「ん? ああ、行ってなかったっけ? 俺昔ヴァルドスとライオットで戦ったことあるんだよ」

『え?』

 全員が間の抜けた声を漏らす。が、それに構わずヴァルドスは補足を入れた。

「俺がまだ学生時代にな、一回だけ戦ったんだ。こいつ魔法学校にいるくせにまったく魔法使わねえで殴り合いしてくるもんだから面白くて面白くて……以来よく会ってるんだよ。あ、そういやお前もう卒業だっけ?」

「いいや。後数か月あるな」

「確かゴブルスから内定貰ったんだろ? いつか戦えるといいな」

 ゴブルスとはライオットの名門チームの一つである。しかし……ここに来て意外な事実が明らかになっていった。

「なぁ、アレックスって何者?」

「一応……魔法学校ではライオットチームのキャプテンです」

「マジかよ」

 ヴィクトリア。できればそれを早く行ってほしかった。だからこうやって顔パスで通れたわけか。とすればあの席が取れたのも納得がいく。

「っと、そうだヴァルドス。この子がお前のファンなんだよ」

 アレックスが指差す先にはメア。珍しく興奮しているようで頬が赤い。

「おっ、嬢ちゃん俺のファンかよ? 意外だな。もっとカッケえ奴もいるだろうに」

「そんなことないわ。だって……あんなに痺れたの初めてだったもの」

 それを聞いて、ヴァルドスはげらげらと大笑いし始めた。かと思うと、そっとメアの頭に手を乗せ、

「ありがとよ。それならファンサービスしねえとエンターテイナーとして終わりだわな」

 どこから取り出したのか色紙にサインしだすヴァルドス。結構書き馴れているようで数十秒くらいで完成した。

「後はどうする?」

「えっとそれじゃあ……握手してちょうだい」

「お安い御用だぜ。ほら」

 武骨な手だが、優しい手つきでメアと握手を交わすヴァルドス。

 自分でエンターテイナーというだけあって中々ファンサービスに寛容なようだ。

「じゃ、お前らの祝勝会の邪魔しても悪いし、そろそろ行くか。ありがとな、ヴァルドス」

「おうよ、いつかプロの舞台で会おうぜ。それと、嬢ちゃんもな。またいつか来てくんな」

「ええ、また来るわ。本当にありがとう」

 メアはやはり名残惜しそうにしていたが、やがて彼らに手を振ってその場を後にした。その横顔は幸せそのものである。

 けれど、彼女は知っているのだろうか? また来れる保証がないということを。


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