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四十九話目

 さて、試合は中盤に差し掛かり、俺たちは昼飯代わりのホットドッグを食らっていた。

 ライオットで面白いのは時間制限がないところだ。つまり、数秒で終わる試合もあれば数時間に及ぶ激闘だってある。今日で一番白熱したのは何と言ってもドラゴンとゴーレムの一騎打ちだった。

 まさかお互い序盤でエースを投入してきたのだから当然会場はどよめいた。けれど、試合内容としてはこれ以上ないほどだったと思う。

 ゴーレムの巨腕がドラゴンの顔を撃ち、ドラゴンの吐く炎がゴーレムを襲う。流石はエース選手というか、かなり動きがよかった。通常鈍重であるはずのゴーレムもかなり身軽で高度なフットワークを見せていたし、ドラゴンは複数のドラゴンの血を引いているクォーターらしく、複数のブレスを使って応戦していた。

 さて、その結果はというと……相打ちだった。

 互いの顔面に拳を叩きこんだと同時、ペンダントが許容量を超えたのだ。儚い破裂音が響き、二人は強制的に別室へ転送された。

 いくら傷はつかないとはいえ体力は消費する。消えていく寸前見た彼らの横顔はすっかり疲弊しきっていた。

 そして今はフィールドの整備が行われている。ライオットはバトルごとにランダムでフィールドが変化するので、少し準備に時間がかかるのだ。今は大体八割程度完了といったところだろうか?

「……すごかったわ……あんな迫力ある戦い方見たことないもの」

 メアが放心したように呟く。どうやらすっかり虜になってしまったようだ。

「ちなみに誰が気に入ったんだ?」

 パンフレットを広げながらアレキサンダーが問う。メアはそちらに目を向け、やがてある一点を指さした。そこには……

「おお、ヴァルドスか。いい趣味してるな」

 ヴァルドスとはパズニールのチームに所属する巨体のトロールである。

 普通のトロールと違い彼はかなり饒舌で、しかも耐久力に優れていた。試合中にもマイクパフォーマンスやあえて攻撃を喰らってみせたりしていたものである。ある種最強のエンターテイナーといえるかもしれない。ちなみに先ほどは相手のオーガ相手に快勝していた。

「俺のオススメはこいつだな」

 アレキサンダーが指差しているのは褐色肌の小人。スプリガンのパヌラだ。

 彼の戦闘スタイルはまさに圧巻としか言いようがなかった。普段は俺たちの膝辺りくらいまでしか身長がないのに、戦闘になるや否やゴーレム以上の巨体となるのだ。当然、その体から放たれる攻撃はすさまじいの一言である。

「にしてもメア。お前ヴァルドスが好きか……なるほど……わかった」

「? 何がわかったの?」

「ん? あ……まぁ、好みだよ。お前の」

 歯切れが悪く言ってホットドッグを貪る。どうやら話すことを放棄したようだ。メアもそれを見て、炭酸水を煽る。

 ちなみに他の全員もかなり熱狂していた。特にリーシャは大声を上げて選手を応援していたし、メリー何てドラゴンが出てきた途端贔屓全開で声援を寄越していたほどだ。

 ヴィクトリアとゴーシュはまじまじと注意深く選手たちを見ていた。ライオットは限られたフィールド内でどう立ち回るかという戦略性も含まれているので、彼らはきっとそこを重点的に見ていたんだろう。

 と、そんな折ようやくフィールドの準備が完了したのか結界が消えた。今回はシンプルな荒野ステージ。戦略より力がものを言うステージだ。

 数秒おいて出てきたのは――先ほど話に出ていたヴァルドスとパヌラである。最後の一人になるまで戦い続けるので勝ち残った選手が出てくるのもまたこの競技の醍醐味だ。何にせよ、勝った選手は実力者であるので見物であるのは確かだ。

 なのだが……後ろではアレキサンダーとメアが激しい口論を繰り広げていた。

「絶対にヴァルドスさんが勝つわ。さっきの戦いでも圧勝だったもの」

「い~や、違うね! パヌラの攻撃を数発も食らえばいくらトロールでも倒れちまうよ!」

 バチバチと見えない火花を散らす二人……頼むから穏便にやってくれ。

 というか、アレキサンダー。お前大人げなさすぎるだろ。レックス、本当子孫に変な遺伝子残してやるなって。

 俺がため息をつくと同時、司会が声を張り上げた。

『さあ! それでは……試合、始め!』

 まず先に出たのはパヌラだった。巨大化し、その剛腕をヴァルドスへ振り下ろす。

 が、彼はその攻撃を受け切っていた。どころか、口の端に笑みを浮かべている。

『ヘイ、パヌラ! お前の攻撃はその程度か! もっと来いよ! もっとぶつけてみろよ! もっと楽しませてみろよ!』

 口上を叫ぶヴァルドスへ向かって今度は蹴りを放つパヌラ。彼はまともにそれを受け、数十メートル吹き飛ばされたが、ややあって立ち上がる。

『ハッハー! いいぜいいぜ! けどまだ足りねえよ! なぁ! オーディエンス!』

 それを聞いて沸き立つ観客。当然メアもその中にはいた。両手を組み合わせ上にあげる彼のお得意のポーズを一緒に取りながら、声援を送っている。結構一緒にいたのにここまでノリがいいとは思っておらず、少し意外だった。

 その挑発を聞いてパヌラも魂をくすぐられたのか、ヴァルドスと同じ身長になって彼の元へ行った。かと思うと、すさまじいフックをその横っ面に叩き込む。

 それを受け、ヴァルドスもストレートで反撃。一拍おいてパヌラはアッパーで彼の顎を撃ちぬいた。

 そこからは壮絶な殴り合い。技術も小細工も何もないただの純粋な力比べ。互いの拳がめり込み、蹴りが痛快な打撃音を響かせる。ともすれば子供の殴り合いのようにも見える――が、彼らは真剣そのものだった。

 相手の力をわかっているからこそ、全力で、それこそ殺す気でやっている。それはダイレクトに観客まで伝わり、熱を生んでいた。

 ……が、ここで均衡が崩れた。ヴァルドスの体が少しだけ揺らいだのである。

 それを見逃さずパヌラは痛烈な膝蹴りをヴァルドスの腹部に叩き込んだ。しかもそれで終わらず肘打ちを背に放ち、彼の腰を掴んで上体を逸らし――投げ飛ばした。

 その時だった。とうとうヴァルドスのペンダントが許容量を超えたのは。儚い音が響き、彼の体が発光を始める。

『勝者! パヌラ選手! おめでとう……ってあれ?』

 司会が間の抜けた声を漏らす。というのも、倒れていたはずのヴァルドスが立ち上がりパヌラの元へ寄っていったからだ。パヌラはさっと身構えたが、結局それは意味のないことだった。

 ヴァルドスは彼の手を取り、高く掲げてこう叫ぶ。

『パヌラ! この俺に勝ったんだから負けるのは許さねえ! 絶対勝てよ!』

 本来は敵チームを応援するのはご法度だろう。だが、彼は構わず告げる。

『オーディエンス! この小さな戦士にもう一度大きな声援を!』

 直後返ってくるのは耳をつんざくような歓声と拍手。ヴァルドスは満足げにしながらも、光の中へ消えていった。

 それを見たメアは感涙していた。同様に、アレキサンダーも涙ぐんでいる。

「本当カッコよかったわ……」

「ああ……あの人は漢だぜ」

「それを言うならパヌラさんもよ……さっきはごめんなさい」

「いや、俺こそ悪かったな。つい熱くなっちまったよ」

 涙を流しながら熱くトークを交わす二人。俺は半眼でそちらを眺めていた。

 何というか……二人だけ完全に別世界に入っていた。


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