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四十八話目

 翌朝、やけに自信満々な顔のアレキサンダーに連れられて俺たちは開けた場所に来ていた。

「メア。今日は俺が面白いところに連れていってやるぜ」

「ええ、楽しみにしているわ」

「それじゃ、ちょっと待ってろよ」

 カリカリと魔方陣を地面に描きながら、アレキサンダーは告げる。

「ヴィクトリア。お前変身魔法得意だったよな? おっさんたちにかけてやってくれよ」

「あ、それもそうですね。じゃあ皆さんこちらに並んでください」

 言われるがまま俺とゴーシュ。そしてメリーとメアがヴィクトリアの前に立った。すると彼女はにっこりとほほ笑みながらこちらに指先を向け、

「《老いた女神よ・その美貌を・外法にて保たん》」

 呪文を詠唱。すると俺の姿が別人のものへと変わった。しかもそれというのが……昔絵に描かれていた姿だ。年のころは十八くらいになり、背も少し縮んでいる。

 一方でメアはアリシアの子供時代の姿へ、ゴーシュはレックスの姿、そしてメリーはヴィクターの姿へと変貌した。

 なぜこのようなことをしたのかというと理由は単純。俺たちの面が割れているからだ。最悪誰か知っているものがいた場合台無しにされかねない。というわけで、わざわざ魔法まで使って姿を隠すことになったのだ。

「今日一日は持ちますので安心してください。日付が変われば自動的に解除されますから」

 それがいい。若いからだというのも懐かしいが、少しむずがゆさを覚えてしまう。

「さ、準備で来たぜ」

 そう言ってパンパンと手についた泥を払うアレキサンダー。数秒おいて息を吸い、

「んじゃ、行きますか!」

 直後、俺たちの視界が暗転した。


 空中できりもみするかのような感覚をしばらく味わった後、それが止む。そこで目を開けるとそこには――巨大なスタジアムが見えた。

「ここは?」

 不思議そうなメアの声。アレキサンダーは口の端を歪めながら告げた。

「ライオットっていうスポーツ知ってるか?」

「いいえ……知らないわ」

「ならよかった。きっとハマってくれるはずだぜ?」

 ちなみにライオットとは一種の戦略ゲームである。まぁ、それが少しばかり過激ではあるのだが。

 そんなことを思っているうちにチケットを買ってきたアレキサンダーが俺たちに渡してくれた。それを見て、なぜかゴーシュが目を剥く。

「こ、これ特等席じゃないですか……?」

 見れば確かにそんな文字が。というか、レックスの姿でゴーシュの話し方だと違和感がマックスだ。ちょっと混乱してしまう。

 と、そこでレックスは首肯し、

「おう。ま、俺は結構顔が広いんだぜ?」

「というか、誰彼構わず馴れ馴れしく接しているだけでしょう?」

 厳しめの言葉を投げかけるリーシャ。やっぱりこの関係は昔から作られているものなのだろう。妙な安定感と既視感があった。

「じゃ、先行っててくれよ。俺は少しやることがあるからさ」

 そういうなりそそくさと走り去っていくアレキサンダー。俺たちは苦笑しながらもスタジアム内に入り、案内板に沿って席の方へと向かっていった。

「あ、ここを上がるみたいですね」

 ヴィクトリアに続いていく俺たち。やがて階段を上り終えると、見えてきたのはガラス張りの部屋だった。フィールドの全てが見え、しかも他の観客が邪魔にならない絶妙な一打。これはアレキサンダーに感謝しなければならないだろう。

「お、迷わず着いたか。早いな」

「おう……って、何だそりゃ?」

 後方を見ると巨大な袋を背負ったアレキサンダーがいた。彼はハハハと笑いながら頭を掻く。

「いやさ、観戦にはやっぱこれだろ」

 袋の中にあったのはなんとメガホンや旗など。その中には食料品類などは入っていなかった。

「あの、何か飲み物などは……」

「あ、ゴーシュさん。それなら心配いりませんよ」

 そう言って自分のチケットを取り出すヴィクトリア。彼女はくるっとそれを裏返し、こちらに見せてくる。

「この後ろに魔方陣があるのでそれを押してください。そして音声が聞こえてきたら、欲しいものを言えば自動的に転送されてきますから」

「……す、すごいですね……」

 俺とメアもゴーシュと同じように目を見開いていた。まさかここまで技術が進歩しているなんて知らなかった……やっぱり数百年閉じ込められていたのはまずかったな。

「ところで、ライオットってどういうスポーツなの?」

「う~む……まず二つのチームが十人ずつ選手を集めて戦うんだ。ただそれが少しばかり変則的というか何というか……」

 言いよどむアレキサンダーに助けを出すようにリーシャが口をはさむ。

「簡単に言うと魔法戦よ。各チーム十人のうちから一人ずつ代表選手を出して戦いを始めるの。ルールは簡単。先に相手を倒した方が勝ちよ」

「危なくないの?」

「大丈夫よ。選手は傷を吸収するペンダントを装着していて、それはある一定量のダメージを負うと自動的に破壊される仕組みになっているの。だから、よほどやり過ぎない限りは怪我人も出ない安全な競技よ」

 それを聞いてメアは安堵のため息を漏らす。

 だが、俺が現役のころはそうじゃなかった。

 そんな便利なペンダントはなかったので、動けなくなった方の負け。こういうルールだってので根性馬鹿のレックスなどは何度でも何度でも立ち上がって相手を畏怖させていたものだ。一時期リビングデッド説が流れ始めたくらい強烈だったのを覚えている。

 たぶん、そういう馬鹿がいたから改正されたのだろう。実際怪我人も多かったし、何よりだ。

「おい、そろそろ始まるようだぞ」

 窓に張り付いていたメリーが俺たちに言い放つ。すぐさまそちらに寄ると、司会の威勢のいい声が聞こえてきた。

『さあさあ、お集まりの皆様大変お待たせしました! 今日はパズニール対ロンドリンドの大一番! 間もなく選手の入場です! 惜しみない拍手でお迎えください!』

 数秒おいて、グラウンドの両端に魔方陣が出現。そこから出てくる選手を見て、メアは驚いたようだったがそれもそのはず。その中には人間だけでなくエルフやオーク、果てはドラゴンまでもがいたのだから。

 元来、ライオットとは種族間抗争をなるべく穏便に済ませることを主眼に置いた種目だった。勝った方は負けた側から賞金や食料を得ていたのだ。けれど年を経て種族たちの中がよくなるにつれてエンターテインメント性が強化され今のような形に至ったという。

 他種族が手を取り合いチームの勝利に向かって戦うというのは中々に熱いものだ。以前俺も見たことがあるが、本来敵対しているはずのダークエルフとエルフの選手たちが勝利を得るや否や肩を抱き合って喜びあっていたのである。あれはかなり燃えた。

「……すごい」

「彼らは全員プロ選手。というか……戦闘のプロといった方が適当ね」

「ほら、見てみろよ。あのドラゴンなんか強そうだろ? エースなんだぜ」

 アレキサンダーの指の先には若いドラゴンの姿。燃えさかる火のように紅い鱗を持っている。

「……私の方がでかいし、強い」

 若干臍を曲げたようなメリーの声。はいはい、わかってるって。

 そこでまた司会の声が鳴り響いた。

『さあ! 両選手で揃いました! まずは最初の選手を選んでください!』

 それを受けて緑色のユニフォームを着たチーム、パズニールからはオークの男性が。ロンドリンドからはレントという巨大な樹の魔法生物が選出された。両者とも凄まじいプレッシャーを放って互いに睨み合っている。

『制限時間は無制限……それでは、始め!』

 直後、俺たちの鼓膜を歓声が揺らした。


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