四十六話目
それからややあって、俺たちは花畑へと向かっていた。先頭をメリー、メア、椅子ウサギが歩き、それからゴーシュ、アレキサンダーと続く。後方には俺とリーシャ、そしてヴィクトリアが控えていた。
そんな折、リーシャがふと口を開いた。
「……ねぇ、何か隠してるんでしょ」
「……わかってたのか?」
「伊達に大家族じゃないわよ。それが何かまではわからないけどね」
メアに聞こえないことを改めて確認してから、俺はぼそぼそと二人に告げた。
「実は……メアの体についてだが……」
あらかた語り終えるころには二人とも沈んだ表情になっていた。
「そんな……本当なんですか?」
「冗談でこんなこと言うわけないだろうが……」
嗚呼、そうだ。これが冗談だったらどれだけいいことか。
終わりが見えているということの辛さは俺が一番よく知っている。
だからこそ、言わなければならない。
「すまないが、メアには黙っていてくれ。それと……もう時間は限られてるけど、少しでもあいつにいい思いをさせてやってくれ……せめて……死ぬまで……」
情けない。声が震えていた。気づけば目頭も熱くなっている。
が、そんな俺を見かねてかリーシャがキッパリと言った。
「別にお願いされるまでもないわ。だってあの子いい子じゃない」
「ええ、そうですよ。一緒にいて楽しいですもの」
嘘を言っているようには見えなかった。二人とも本当にメアのことを思ってくれている。正直、ありがたい。
気持ちを落ち着かせるため深呼吸したところで、不意にメリーたちが立ち止った。
「? おい、何で止まったんだ……っておぉ……」
そこで俺は感嘆の声を漏らした。
俺たちの目の前に広がっているのは――まさしく絶景。
色とりどりの花々が広がり、まるで地面に虹が描かれているようだ。
さらに、花の周囲では楽しげに妖精たちが踊っている。
俺も長らく生きてきたが、ここまで幻想的で美しい景色は見たことがなかった。
「母様と私たちが作った花畑だ。今でも手入れに来ている」
確かに整理されているが、あくまで自然の姿を保った状態だ。だからこそ、美しい。
「少し、見て回ってもいい?」
「ああ、いいぞ。何なら紹介を加えよう」
花を傷つけることがないよう軽く飛翔してメアの後をついていくメリー。俺たちも浮遊魔法を使ってその後を追っていった。
「や、やっぱり自分は飛ぶのが苦手です」
「ガウ……」
情けない声を出すゴーシュと椅子ウサギ。俺の奪還作戦ではあれほど勇敢な姿を見せてくれたというのに、このありさま。きっとあの時はテンションが上がっていたのだろう。素面だとまだ怖いらしい。
「オススメとかはありますか?」
メリーの横に並んだリーシャが問う。
「むぅ、ならばいいものを見せてやろう」
そう言って花畑の奥に向かっていくメリー。その先には――一輪の花があった。
それは一見ヒマワリのようにも見えたが、少し違う。
ラフレシアのように地面に横たわっている姿をしており、その花弁は日光を浴びてキラキラと七色に発光している。しかもそれなりに離れているというのに甘美な匂いが俺のほうまで漂ってきた。
「これはアルコバレーノ・ライラウスという花だ。年を通して枯れることがなく季節によってその姿を変える」
「へぇ……じゃあ、夏以外の時また見たいわ」
メアの願いを聞き、俺は思わず唇を噛み締めた。
――もうすぐ彼女の命は終わるという事実は、確かに俺たちの心に根付いてしまっていた。
そんな時、話題を変えるためメリーが口を開いた。
「ちなみにだな、この花は母様が一番好きだったものだ」
すると、それを聞いてアレキサンダーがニッと笑みを浮かべた。
「なぁ、前から思ってたんだが、ドラゴンのおっさんってあれか? マザコンか?」
「なっ!? 何を言う!?」
「言われてみれば……確かにメリーって母様母様言ってるよな」
「ウルまで……」
まぁ、それだけ愛情が深いということだろう。愛あることは美しきことなり、という奴だ。
が、楽しげに笑う俺たちをジト目で見ながらリーシャが厳しい口調で言った。
「ちょっと、メアもいるんですのよ? 変なこと言わないで」
「? ウルたちが何か変なこと言ったの?」
「あなたにはまだ早いわ」
サッとメアの耳と目を塞ぐリーシャとヴィクトリア。二人とも、俺たちの方に厳しい視線を寄越していた。
当然、俺たちに謝るしか道は残されていなかった。




