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四十三話目

「じゃあ、今日は何をしようかしら?」

 早めの朝食を終えたメアがそんなことを言う。一方でほかの奴らは眠そうに目をこすっていた。まぁ、その原因の一端は俺にあるのだが。

「……とりあえず、メア。お前は何がしたい?」

「実は、あまり思いつかないの。だってここにはどんなものがあるかわからないから」

 なるほど。今まで閉じ込められていたから何ができるのかわからないのか。とすれば……

「メリー。ここいらで何かできそうなことはあるか?」

 すると、メリーは深いため息を漏らしながら告げる。

「ふぅむ……近くに川があるが、そこで釣りでもするか? ちょうど昼飯の確保にもなるだろう」

「だ、そうだ。それでいいか? メア」

「ええ、大丈夫よ。お願いするわ」

「それでは、釣竿を取ってくるとしよう」

 だが、結果としてメリーがいくことはなかった。いつの間にかゴーシュがどこからともなく釣竿を持ってきていたのである。

「いや……エリーナさんがこれ持っていけって……」

 エリーナとはエルフの名前だ。ゴーシュが一晩を共にし、只ならぬ間柄になったという女性である。ちなみに彼女以外にもゴーシュを食べた奴がいるのだから、末恐ろしい。

「ま、いいや。んじゃ、行こうぜ」

 首を鳴らしながら立ち上がるアレキサンダー。リーシャたちも眠そうにしていたが、その後ろをトコトコとついていった。ついでにメアもメリーの背に乗って先に向かっている。残されたのは、俺とゴーシュ。それと椅子ウサギだけだった。

「何かこの面子も久々だな」

「ですね。ちょっと懐かしいです」

「グルッ」

 嬉しそうに表情を緩めるゴーシュと喉を鳴らす椅子ウサギ。俺は二人に微笑みかけながら、メリーたちが向かっていった方に歩き出していった。

「そう言えば、ゴーシュ。お前ずいぶん逞しくなったな」

「え? そうですか?」

「ああ。顔つきっていうか、雰囲気か? 前より男らしくなった気がする」

「ですかねぇ……? あまり自分ではよくわからないんですが」

「そういうもんだよ、成長ってもんは」

 ――って何か年寄り臭いことを言ってしまった。ダメだな。昔話をしたせいで爺くさくなってしまっている。

 そんなことを考えていると、俺たちの耳に水の流れる音が聞こえてきた。ちょっと目を凝らせば、確かに清流が流れているのが見て取れる。すでにそばにはメリーたちがいた。

「おう、お待たせ」

「それじゃ、始めましょうか?」

 ヴィクトリアの提案に異を唱える者はいない。すぐに頷きを返し、ゴーシュが持っていた竿を一本ずつ持って川のそばに立った。けれど、メリーは素手。まぁ、こいつのサイズにあう竿はないだろうから、ある意味しょうがないか。

「ところでメア。竿を貸して御覧なさいな」

「? はい」

「エサはこうやってつけるの。よく見てなさいな」

 リーシャは甲斐甲斐しくメアに餌の付け方を教えてあげている。ちなみに今回使用するのはミールワームという幼虫だ。メアはうねうねと動くそれに少し怯えているようだったが、しばらくすると慣れて普通に触れるようになっていた。案外適応能力が高いと思う。

「さ、出来ましたよ。後は……こうやって投げ入れるだけ」

 ひゅんと竿をしならせ、入水させるリーシャ。その姿をじっと見つめているメアはともすれば妹のようだった。

「あまり固まると糸が絡まるから、ちょっと離れましょうか」

 リーシャはメアの補佐として近くにいるが、それ以外の面々は散り散りになった。俺も彼女たちから少し離れた岩場に腰を下ろし、餌を入水させる。


 ……が、それから十分は誰も釣果がなかった。エサが食われているので魚がいないというわけではないのだが、いかんせんここの魚たちは賢いのだ。魚影は見えているのでそれに合わせようとするが、意外にこっちの殺気を感知する。手ごわい相手だ。

 メアたちも似たようなものらしい。というか、少しばかり退屈そうに見える。

 まぁ、それも当然だ。釣りは釣れなければつまらない。飽きるのはしょうがないことだ。

 だが、そんな彼女を見かねてか、リーシャが何かを言っている。

「いいですか、メア。何事も辛抱が大事です。ほら、持ってみなさい」

「ええ……でも、全然かからないわ」

「ちょっと見ていなさい」

 竿をクイックイッと上下させるリーシャ。案外お嬢様かと思っていたが、意外とアウトドア派なようだ。素人目にもその竿捌きの良さが見て取れる。

「いい? なるべく活きのいい餌だと思わせるの。魚の気持ちになってみればいいわ。あまり動かない餌って美味しそうに見えないでしょう? 頑張りなさい」

 そう言ってメアの腕にそっと手をかけ補助を行うリーシャ。メアはしばらく不服そうにしていたが、数分もしないうちに竿がしなった。

「今!」

 グッと竿を上げると同時、竿が一層しなる。それからしばらく格闘していたものの、やがて一匹の魚が釣り上げられた。それは金色で、輝くような鱗を持っている。しかも、サイズも大きく俺の腕と同じくらいだ。

 呆気にとられているメアに優しく微笑みながら、リーシャは告げる。

「ね? できたでしょう? どうだった?」

「ええ、楽しかったわ」

「よかった。今度は自分でやってごらんなさいな」

 まずリーシャが魚を針から外し、竿をメアに渡す。そしてメアは受け取った竿に餌をつけ、ぎこちない仕草ながらも川に投げ入れた。見よう見まねだが、竿を揺らしている。その横顔はどこか楽しげに見える。

「さて……俺もやるとするか」

 見れば、他の面々もコツを掴んだのかひょいひょいと釣り上げている……メリーと椅子ウサギだけは自分の舌や指で魚を採っていた。ちょっとずるいと思ったのは、きっと俺だけじゃないはずだ。


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