四十一話目
空にはすでに月が高く上っている。あれからかなり時間が経っており、もう料理もつきかけてきた。そして、メアも何回か眠そうに目をこすっている。流石に子どもが起きているのには遅い時間だ。
「メア。眠かったら寝ていいんだぞ?」
「ん……でも、まだみんなと話したいわ」
するとその様子を見かねてか、リーシャがメアの顔を覗き込みながら言った。
「ねえ? 眠かったら寝てもいいのよ? だって私たち、まだここに滞在するつもりだから」
「本当?」
「ええ、あいにく私たちも暇なの。むしろ、こっちからお願いしたいくらいだわ」
「そういうことですから、寝ても大丈夫ですよ。また明日も一緒にお話しできますから」
「……わかったわ。お休みなさい……」
リーシャとビクトリアに頭を下げてから、メアはトコトコと小屋の方に歩いていった。その後ろ姿を視界の端に納めたところで、俺はリーシャの方を向く。
「お前……案外気が利くんだな」
「なっ!? 失礼な……ちゃんと私だって気遣いぐらいできます」
「リーシャさんのお家は大家族なんですよ。彼女が長女で、下が四人いるそうです」
なるほど、どうりで扱いが手慣れていたわけだ。本当姉御肌のところまでアリシアそっくり――こいつ生まれ変わりじゃないのか?
というか、さっきからこいつらの会話を聞いていてわかったのだが、メリーは長年彼女たちと付き合いがあったらしい。まぁ、言ってしまえば俺を除くダチが全員つながりを保っていたということだ。しょうがないこととはいえ、ちょっと寂しかったりする。
そんな折、ふとアレキサンダーが立ち上がった。
「さて……っと。なぁ、あんた。一回俺と手合わせしてくれねえか?」
「……は?」
「言っただろ。爺さんとよくやり合ってたって。今の俺が当時の爺さんと比べてどうなのか、見極めてもらいたいんだよ」
「あ、では私もお願いします。大魔法使いだったと聞いていますので、ぜひご教授お願いします」
「まぁ、私の方が強いのは確定でしょうけど……ちょっとあなたにも興味があるしね。お願いするわ」
「では、私もお願いしよう。結局最初の戦いはうやむやになってしまったしな。再戦といこうか」
こいつら――意外と好戦的だ。いや、これくらいの魔法使いなら当然か。
ある程度の力をつけてきたら、今度はそれを試してみたくなるのが常だ。それがわかっているからこそ、俺は彼らに頷きを返した。
「ありがとよ。それじゃまず俺から……」
「いや、待て待て」
俺はアレキサンダーの言葉を無理やり遮って、告げる。
「全員でかかってこい。たぶんお前ら相手なら余裕だから」
瞬間、彼らの顔色が一瞬で変わった。アレキサンダーとリーシャは露骨に怒りをあらわにし、メリーは眉根を寄せ、ヴィクトリアは微笑みながらもプレッシャーを放っていた。
が、今の俺にはそんなもの怖くもなんともない。数百年の眠りから目覚めた俺の魔力回路は全盛期と大差ない。戦闘の勘だって戻ってきているし、負ける要素はないはずだ。
「さ、かかってこいよ。それとも怖いか?」
「言って……くれんじゃねえかっ!」
「同感よ!」
まず先手を仕掛けてきたのはアレキサンダーとリーシャ。アレキサンダーは強化魔法を使って身体能力をあげており、リーシャは手から雷撃を放ってきた。
だが、甘い。
「《獣王の牙・全てを喰らい・削り取れ》」
瞬間、俺の眼前に巨大な牙が数十本出現。それは上手く噛み合わさって盾となり、二人の攻撃を容易く防いだ。けれども、そこで終わらない。
すでに上空高く飛翔していたメリーとヴィクトリアが黒と赤の炎を放った。それは空中で混じり合い、巨大な渦となって襲い来る。
「《絶対凍土の牢獄・罪人を・許すべからず》」
次に出現したのは無数の氷柱。それは炎を防ぐ盾となり、また彼らを襲う槍となる。
しかし、流石はあいつらの子孫。何とか退避し、一塊になってこちらに手を向けた。それぞれ詠唱をしているところから見ても、最大呪文を放つようだ。
まぁ、ここにはメリーもいるし……いいだろう。俺もとっておきを見せてやる。
――そしてこの数十秒後、メリーたちは地面に伏していた。
「ば、馬鹿な……何だ今のは……」
かろうじて気を失っていなかったらしいメリーがそんなことを言ってくる。長年生きてきたこいつでも流石に今のは初めて喰らった技のはずだ。
それより俺としては……マリカの固有魔術を打ち破ることができてかなり嬉しかった。あれから研鑽を重ねてきたかいがあったぜ……。
「それに……以前見せたのが固有魔術ではなかったのか?」
「ああ、それか。悪いけど俺、固有魔術今見せたのと前見せたの以外でまだ五個あるから」
「ふっ……流石母様のご学友だ……あっぱれだ」
それだけ言ってとうとう気を失ってメリー……何だかこの絵面だけ見れば俺がとんでもない悪役なように思えてきてしまい、つい身震いしてしまった。




