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四十話目

 それから数時間後、森には笑い声が響いていた。

 ありったけの酒と食糧を呑み、喰らい、思い出話に花を咲かせる。

 これほど幸せなことがあるだろうか?

 久方ぶりに感じる多幸感と酔いに身を任せながら、俺はメリーたちの方に向きなおった。ちなみにヴィクトリアやメアたちもその横にチョコンと座っている。俺の話を真剣に聞いていてくれているのだ。

「……で? 次は何が聞きたい?」

「そうですね……ウルさんは学生時代どんな人だったんですか?」

 口を開いたのはヴィクトリアだが、ほかのみんなも同様にその答えを聞きたがっている。

「まぁ……はっきり言えば問題児だな。よくやらかしてたさ」

「例えばどんなのだ?」

 今度はアレキサンダーが問いかけてきた。酔っているのか、顔が真っ赤である。

「そうだな……俺たちが十三の時起こした事件を教えてやろう。デスワームを知ってるか? 砂漠に住む巨大な幼虫型の魔法生物なんだが、生物学の先生がそれを持っててな。まぁ、魔が差したというか何というか……そいつに肥大魔法かけちまってな。大騒ぎになった」

「どうなったの?」

 不安げなメアの声。だが、そこに確かな好奇心が潜んでいた。だからこそ、言ってやる。

「犯人は俺とレックスだったわけだが、まず近くにいたレックスが呑みこまれてな。あっという間だった。俺は必死に逃げたがあの野郎意外と速くてな。俺もすぐ呑みこまれちまった」

 その場にいる全員がハッと息を呑む。今生きてるんだから死んでるはずがないだろう。

「で、呑みこまれたわけだが、デスワームの身体ってトンネルみたいになってんだよな。んでしばらく歩いてたら……ククク」

『?』

「いや、悪い。ちょっと思い出し笑いをしちまった……先に入ってたレックスと出会ったわけだが、あいつほとんど全裸でさ。もうお互いパニックになっちまってな。絶叫しながらの殴り合いだよ」

 こみ上げてきた笑いを何とかこらえ、

「で、しばらく殴り合ったわけだが、流石にこのままじゃデスワームのおやつになっちまうと俺たちは考えたわけだ。まぁ、そこからは……お察しだ。デスワームの身体に暴行を加えた後、胃液と一緒に外に出された……おかげでしばらくあだ名が『胃液人間』だよ。あの時は死んだ方がマシだと思ったね」

 おまけに外に出るころにはレックスは完全な全裸だった。それを見た女生徒たちが狂喜乱舞の声を上げていたのを覚えている……あいつ結構鍛えてたから、その手の女子にとっては目の保養だったらしい。アリシアに聞いた。

 さて、会心のネタを披露したわけだが……イマイチ反応が芳しくない。流石にこの話はまずかったか……食事中はやめておけばよかった。

「私が言うのも何だが、そうとうな修羅場をくぐっているな」

「ええ……いたずらのレベルが違いますよね」

「もはや一周回って尊敬するわ」

「爺さん……よく食われて生きてたな」

「ウル……」

 え? 待ってくれよ。何で全員馬鹿を見るような目をしてるんだ?

 いや、当時は確かに馬鹿だったけど、一応俺年上だぞ?

「じゃ、じゃあ次はとっておきのを話してやる! 卒業式の時生徒指導の教師に勇士たちで一斉攻撃を……」

「どうせコテンパンにされたんでしょ?」

「な、何でわかったんだ!?」

 そう。俺たちが学生時代体罰上等鉄拳制裁をモットーとしている教師がいた。俺やその他の生徒たちはよくそのお仕置きを喰らっていたので積年の恨みが募っていたわけだ。だからそれを晴らそうと一斉にかかったわけだが……結果として手も足も出なかった。

 俺のような魔法主軸で体術を鍛えていなかったタイプは真っ先に発声器官を潰され、レックスのような体術主体のタイプは麻痺や催眠の魔法で次々と潰されていった。結果として、いつも通りの光景が出来上がったわけだ。

 けれど、後にアリシアから聞いたのだが、あの先生は俺たちのことを実は評価していたらしい。『自分に歯向かってきた奴らはあいつらが初めてだ。きっとこれからも頑張っていける」――そう言ってくれていたらしく、それを聞いた俺たちはすぐ謝りに行った。

 すると、先生は怒らず、俺たち一人一人に励ましの言葉を贈ってくれた。

『俺に立ち向かってきたガッツを忘れるな。それと、もし迷ったらここに来い。容赦なく、その悩み事ブッ飛ばしてやる』

 年を取ってわかったが、厳しかった先生ほどありがたいものだ。

 俺みたいな問題児はほとんど呆れられていたというのにあの先生だけはちゃんと向き合ってくれた。当時はウザいと思っていたものだが、今では本当に感謝している。それはきっと他の奴らも同じだっただろう。

 ――おっと、いけない。目から汗がこぼれちまった。せっかく飲んだ酒が出ていっちまう。

 そう思い、俺はぐっとグラスを煽った。

 と、そこで今度はメアが口を開く。

「ねぇ、ウル。一ついいかしら?」

「ん?」

「ウルは好きな人いたの?」

「ブ~~~~っ!?」

 口に含んでいた酒をすべて吐き出してしまった。器官にも入ってしまったのか、咳も止まらない。だが、何とかメアの方に向きなおり、

「な、何でそんなこと聞くんだよ……」

「ただ聞きたかったからよ。ウルでも恋はしたのかなって」

 なるほど……ちょうどこの年頃の女の子なら当然の思考だろう。だが、他の奴らは――

「私も聞いてみたいですね。ウルさんの恋愛話」

「ええ。どんな子が好きだったのか、個人的にすごく興味があるわ」

 ――おっと。女性陣は乗り気だ。いや、しかし男たちは――

「ま、早くゲロっちまえよ。楽になるぜ?」

「別に色恋の一つや二つあって当然だ。言ってみろ」

 アレキサンダー、メリー、お前らもか。

 見れば、場の空気は完全にあちらのもの。言わねば収拾がつかないだろうことは見て取れた。

「はぁ……わかったわかった。話せばいいんだろ? 話せば」

「さ、早く言ってしまいなさい」

 そう急かすなって……しょうがねえな。

「あれはまだ俺が七歳のころ。初めてできた担任の先生がすんげえ美人でな……そりゃあもう、新任でピチピチの……」

「ほうほう……って昔過ぎるわよ!」

 リーシャが乗りツッコミか……意外だが、何気にキレがあった。ただ単に風の刃を飛ばしてきたからそう感じただけかもしれないが。

「そうじゃなくて、学生時代よ。ちょうど、ヴィクトリアさんたちのころくらいのお話」

「わかってるって。ちょっと意地悪しただけだよ」

 そこで大きく息を吸い、告げる。

「ま、俺が惚れる女はいなかったな。俺に惚れる女は山ほどいたが。確かにアリシアやマリカは超美人だったが、それ以前にあいつらはダチだ。んな感情は抱かねえよ」

 そう告げると同時、一同から深いため息が漏れる。どうやら期待していた答えと違ったらしい。だが、事実だ。

 マリカやアリシアは俺たちにとって幼いころから一緒に育った仲間であり、苦労を共にしたダチであり、何より喜びを分かち合った家族だった。俺がそういう――恋とか愛がわかる年齢になるころには、すでにあいつらは俺の一部になっていたのだ。

 そんなことを思いながら、俺は新たに注いだ酒を、また一気に飲み干した。


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